第57話

「でも、階段の上部は黒い闇に包まれていて、見えないでしょう? きっと、そこから先がわからなかったからだと思う」



ミキコがアプリにアップロードした写真が途中で途切れていたりすれば、こういう現象が起こるのではないかと考えていた。



「へぇ、面白いな。13階段で上部が暗闇だと、すごく雰囲気もあるし」



コウダイは目を輝かせて写真を見つめている。



あたしは麦茶を一口飲んで身を乗り出した。



「実はこの後、もっとすごいことが起きたんだよ」



「すごいこと?」



コウダイの目がさらに輝く。



「ミキコは階段を消滅させる時間を設定して出現させていたの」



「あぁ。アプリでそういう設定もできるんだっけ?」



「そう。それから、この階段にいるのは同じクラスの吉田さんっていう子」



「まじめそうな子だな」



その意見にあたしは顔をしかめた。



吉田さんはマナミたちのグループに入り、ミキコイジメに加担していた。



だけどそれは今関係ないから伏せておくことにした。



「吉田さんがここに立っている間に、階段は消滅したの」



あたしの言葉にコウダイが「えっ」と声をあげた。



目を丸くしてあたしを見つめている。



「嘘だろ?」



「本当だよ。あたし蔭から見てたんだから」



「まじかよ。この、吉田さんって子はどうなったんだ?」



そう聞かれて、あたしは自分の目で見たことを思い出していた。



あの時、ミキコはやけにスマホを確認していた。



最初は誰かからの連絡でも待っているのかと思った。



でも違ったんだ。



ミキコはあの時、階段が消滅する時間を頻繁に確認していたのだ。



13階段が消滅するとわかっていて、ミキコは吉田さんを階段に立たせたままでいた。



その結果……。



「階段が消滅したとき、吉田さんも一緒に消えたの」



説明しながら口の中が乾いていくのを感じた。



「消えた……?」



「そう。跡形もなく……」



あたしは麦茶をもうひと口飲んで喉を潤した。



「このアプリは使い方によっては人を消すことができるんだよ」



あたしは自分のスマホにダウンロードした具現化アプリを指さして言った。



コウダイはブルリと身震いをする。



「それで、その後ミキコちゃんは?」



その質問にあたしは左右に首を振った。



「ミキコは帰ったよ。何事もなかったみたいにね……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る