第47話
☆☆☆
昼休憩の時間を使い、あたしは職員室へ来ていた。
今日の日直当番の子がプリントを回収し忘れたということにして、職員室に入っていく。
もちろん、本当はあたしがわざとプリント回収の役目を代わってもらったのだ。
「先生プリント持ってきました」
「あぁ、すまないな飯田」
先生にプリントを渡し、職員室から出る手前で足を止めた。
出口の右手に鍵を保管しているケースがある。
そのケース事態には鍵がかけられていなくて、先生の許可があれば誰でも持ち出すことができた。
あたしは何食わぬ顔でケースを開け、体育館の鍵があることを確認すると、それを素早くスカートのポケットへ入れた。
後は職員室を出て、近くのホームセンターで合鍵を作り、本物の鍵を返しに来ればいいだけだ。
そう思い、一歩足を踏み出した。
「飯田」
「は、はい!」
途端に先生に名前を呼ばれて、声が裏返ってしまった。
心臓がバカみたいに早鐘を打ち始める。
まさかバレた?
どうして?
背中に冷や汗が流れていく。
「プリント回収を忘れないように、今日の日直に伝えておいてくれ」
先生の言葉にあたしは全身の力が抜けて行った。
「はい。伝えておきます」
あたしはそう言い、職員室を出たのだった。
☆☆☆
それからの作業は順調だった。
合鍵を作製し、何食わぬ顔でカギを職員室へ返しに行く。
一度家に戻ったあたしは日が暮れるのを待って、こっそりと家を出た。
コウダイくんとの約束時間まであと20分ある。
その間に誰もいない学校へ向かい、合鍵で体育館を開けて中に幽霊を出現させるのだ。
《コウダイ:もうすぐだな! ワクワクしてきた!》
学校に到着して正門を乗り越えたところで、コウダイくんからそんなメッセージが届いた。
その文面にクスッと笑う。
あたし自身、こんな風に夜の学校に忍び込んだことが初めてなのでドキドキしている。
体育館に到着して鍵を開けると、中は異様な静けさに包まれていた。
誰もいないから、自分の足音だけがやけに大きく響渡った。
バスケットゴールの近くに男の子幽霊を出現させ、足早に外へ出る。
出現時間は1時間に設定しておいたから、翌朝誰かが体育館へ来ても幽霊を見ることはない。
体育館から出ると再び校門へと向かい、門の外へ出た。
コウダイくんとの待ち合わせ場所はここだった。
時間を確認するとあと5分ほどだ。
少し待っていると自転車のライトが近付いてきて、あたしの目の前で止まった。
「遅くなってごめん」
そう言うコウダイくんは興奮したように目を輝かせている。
「全然待ってないよ」
答えてブレスレッドを取り出した。
「それが幽霊を見るときに必要な道具?」
「うん。今日は強い念を感じるから、きっと見ることができるよ」
あたしはブレスレッドをはめた手を校舎へ向けてそう答えた。
「すっげー! まじで本物じゃん!」
「ちょっと、声が大きいよ」
さすがに、こんな時間に大騒ぎをしていたら、近隣住民が出てきてしまう。
「ごめんごめん。ところでさ、ミキコちゃんはこれで学校の七不思議全部見ることになるんだろ?」
コウダイくんがフェンスを乗り越えながら聞く。
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