第36話
☆☆☆
プールに出る幽霊を見せてからは、A組の教室内はとても静かだった。
今までで最もインパクトのある写真を使用したのが原因だった。
「ミキコって、いつもあんなのが見えてるの?」
まだ青ざめているクラスメートが心配そうに声をかけてきた。
「いつもじゃないよ? 霊を見るためのチャンネルみたいなのがあってね、それを合わせることで見えるようになるの」
「チャンネル?」
「そうだよ。テレビだって、ずっと付けっぱなしにしてるわけじゃないでしょ? それと同じことを、自分の体の中でするんだよ」
適当な説明をすると、クラスメートは関心したように何度も頷いている。
「霊感があると、そういうこともできるようになるんだね」
「慣れてくればね? 最近は、みんなが『見たい』っていうから、チャンネルを合わせて学校内の幽霊を見る機会が増えてるだけだよ」
「そういうのって大丈夫なの? 力の使いすぎとか、よくないんじゃない?」
「まだ大丈夫だよ」
あたしは微笑んで返答した。
力なんてもともと持っていないから、何を見たって平気だった。
「それならさ、桜の木の下に死体が埋まってるっていう噂はどう?」
そう聞いてきたのは別のクラスメートだった。
いつの間にかあたしたちの会話を盗み聞きしていたみたいだ。
桜の木の下にある死体というのも、学校の七不思議ではよくある話だった。
桜の花がピンク色なのは、死体の血を吸っているからだとか、なんだとか。
「今度見てみようか」
あたしは笑顔で答える。
有名な都市伝説ものなら、いくらでも資料がある。
関連する写真だって沢山あるから簡単な作業だった。
先生が来てみんなが席についてから、あたしは机の下でスマホを操作し始めた。
相変わらず、先生は吉田さんについての話をしているけれど、ここ数日はそんな話をまともに聞く生徒はいなくなっていた。
行方不明事件よりも、もっと面白いことが毎日起こっているのだから、当然のことだった。
あたしは鼻歌交じりに死体の写真を物色する。
最初の頃は偽物の写真ばかり使っていたけれど、最近はこれもリアリティのある写真を選ぶようになっていた。
少し検索してみれば、本物の死体写真が山ほど出てくるのだ。
それらを見るのは正直少しきつかったけれど、今よりももっと有名になるためには仕方のないことだった。
今日のプールに出現させた男の子の霊も、本物の写真を使用している。
だからみんなあれほど驚いてくれたのだ。
あれが偽物の写真だったなら、みんなあそこまで驚いてはくれなかっただろう。
作り出すものは偽物でも、やはりリアリティがある方がいいのだ。
「あった。これいいじゃん」
あたしは女性の死体写真を見つけて呟いた。
その写真はただ眠っているように見える奇麗な女性の写真だった。
しかし、女性の手は胸の上で組まれ、その手には白い花を壱輪握らされている。
この人が桜の木の下にいれば絵になりそうだった。
残念ながら今は桜の季節じゃないけれど、舞い落ちる桜も似合いそうな女性だ。
あたしはさっそくアプリにその女性の写真をアップロードしたのだった。
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