第35話

プールで幽霊を目撃する話も、学校の七不思議でよくあるのものだった。



「放課後に1人でプールに入ってるとね、子供の霊に足を掴まれて引きずり込まれるんだよ」



あたしは昨日のうちに考えておいた話をクラスメートたちに聞かせた。



「ここは中学校なのに、子供の霊が出るの?」



「うん。何十年も昔、ここのプールに忍び込んだ小学生の子がいたみたい。その子は1人で遊んでいて、気がついたら溺れてプールの底に沈んでたんだって……」



「そんなことがあったんだ……!」



クラスメートたちはみんなあたしの嘘を信じ込んでいる。



「その霊がいまでもいるんだね?」



「そうだよ。今日は特に強い霊気を感じるから、見ることができるかもしれないよ」



あたしの言葉にクラスメートたちは怯えながらも、キラキラとした好奇心の目を向けてくる。



「それ、今すぐ見に行ける?」



そう声をかけてきたのはノドカだった。



ノドカはクラスメートたちの少し後ろであたしのことを睨みつけている。



あたしは一瞬ひるんだが、すぐに笑顔になった。



こんなこともあろうかと思って、登校してきたときすでにプールに小学生の霊を出現させておいたのだ。



「もちろんだよ」



あたしはニヤリと頷き、立ちあがったのだった。



10人ほどでプールへ向かったが、まだ使用前なのでどこも鍵がかけられていた。



「これじゃ中に入れないじゃん」



クラスメートが残念そうな声で言う。



でも、フェンス越しにプールの様子を確認することは可能だった。



今朝ここへきたとき、あたしはフェンスを乗り越えてプールに入ったのだ。



あたしはオモチャのブレスレッドを取り出してプールへ向けて手を掲げる。



集中しているように見せかけ、ジッとプールを見つめた。



その瞬間、なにもないプールの水面が波打ったのだ。



「ほら、あそこ!」



波打った水面を指差すと、クラスメートたちは悲鳴を上げ始めた。



水面の奥には黒い人影がうごめいていて、波は大きくなっていく。



「ちょっと、不審者が入りこんでるとかじゃないよね?」



誰かが不安な声をあげた次の瞬間だった。



バシャッと水しぶきが上がって、青白い顔をした男の子がプールから顔を出したのだ。



男の子の顔は水分を含んでブクブクに膨れあがり、目や鼻や耳からドロリとした緑色の水が流れ出した。



水中で腐敗した皮膚は、なにかにぶつかった後のような傷があちこちについていて、そこから黒く変色した血が流れ出している。



「イヤアア!!」



クラスメートたちが悲鳴を上げて逃げ出す。



その様子を見て、あたしは1人で笑っていたのだった。

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