第17話

☆☆☆


5時間目が終わったころ、あたしは1人で屋上へと続く階段の前に来ていた。



周囲にひと気はなくて、普段からなんとなく薄暗い場所だ。



「ここに出現させたらどうなるんだろう……?」



少しの不安と、大きな好奇心。



あたしはアプリを操作して、階段の横にもうひとつの階段を出現させた。



「うわ、すごい!」



思わず呟く。



元々壁だった場所に2つめの階段が現れたのだ。



それは13段あり、一番上は真っ暗な闇に包まれているのだ。



ゴクリと唾を飲み込んで階段を見つめる。



あの闇の向うはどうなってるんだろう?



闇をジッと見つめていると、吸い込まれてしまいそうな気がして震えた。



「と、とりあえずこれでよし、と」



出現時間は2時間にしておいたから、放課後みんなが騒ぎ始めるのを見ることができる予定だ。



自分でやったことなのに闇を見ているとなんだか怖くなってきて、あたしは小走りに教室へと戻ったのだった。


☆☆☆


「ねぇミキコ、今日はなにも感じないの?」



教室へ戻ると同時にクラスメートたちが声をかけてくる。



「そ、それが……」



そう言い、あたしは口を閉じた。



みんなに見せるために用意した階段。



ピアノの時のようにちゃんと説明しなきゃ、見に行ってくれる子はいない。



あたしはチラリと吉田さんへ視線を向けた。



吉田さんはあたしをジッと睨みつけている。



腰を抜かしてしまったこと、あたしがそれを笑ったことを憎んでいるのかもしれない。



「今日は大丈夫そうだよ……」



「なぁんだ。今日はなにもないんだって」



「つまんなぁい!」



途端にクラスメートたちがちりぢりになる。



代わりに吉田さんが席を立って近づいてきた。



なんとなく嫌な気分がして逃げ出そうと思ったが、遅かった。



あたしは吉田さんにしっかりと手を掴まれてしまった。



「な、なに?」



「あたしはあんたのこと信じてないから」



そう言う吉田さんの目はすべてを見透かしているように見えて、思わず視線をそらせてしまった。



でも、あたしはもう今までのあたしじゃない。



なにを言われたって嘘つきにはならないんだ。



あたしはもう一度吉田さんと視線を合わせた。



そしてついさっき出現させた13階段を思い出す。



「そんなに疑うなら、吉田さんにだけいいものを見せてあげる。放課後、あたしについてきて」



あたしは覚悟を決めて、吉田さんへ向けてそう言ったのだった。


☆☆☆


それから放課後まではあっという間だった。



時折、13階段の上部に現れた黒い闇を思い出して身震いをする。



だけどもう後戻りはできない。



あたしはこれから吉田さんと一緒にあの階段へ向かうのだ。



幸いにも、放課後になるまであの階段に気がついた人は誰もいなかったようで、まだ話題にもなっていなかった。



「ミキコ、今日はどうしたの? なんでなにもしなかったの?」



ノドカにそう聞かれて、あたしは一瞬すべてを話してしまおうかと思った。



でも、グッと言葉を押し込める。



今日は吉田さんのためだけの、大サービスデイだ。



「今日はちょっと気分が乗らなかっただけ。明日にはまた始めるつもりだよ」



「そうなんだ」



ノドカが頷いたとき、不意にノドカのスマホが震えた。



スマホを確認したノドカはほのかに頬を赤らめる。



その反応に首を傾げるあたし。



「じゃあ、あたし今日は予定があるから、もう帰るね」



「そっか。じゃあまた明日ね」



あたしはノドカに手を振ると、吉田さんと一緒に教室を出たのだった。

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