第18話
☆☆☆
「別に、なんの変りもないじゃん」
廊下を歩きながら吉田さんは憮然とした態度で言う。
「こっちだよ」
あたしはほとんどなんの説明もせずに吉田さんを階段へと案内していた。
「どこに連れていくつもり? こっちは誰もいないじゃん」
ひと気がなくなった頃、ようやく屋上へ通じている階段が現れる。
あたしはその前で立ち止まった。
「ちょっと、急に止まらないでよ」
あたしの背中にぶつかりそうになった吉田さんが文句を言う。
しかしその直後「えっ……」と呟き、固まってしまっていた。
「ここだよ」
あたしは13階段を見上げる。
「な、なにこの階段。どうして2つあるの!?」
吉田さんは混乱した声を上げる。
「トイレの女の子やピアノを弾く手は作り物でどうにかなるかもしれない。だけど、階段を2つも作るなんて、さすがのあたしでも無理だよ?」
あたしは吉田さんの表情をうかがいながら言った。
吉田さんはサッと青ざめて階段にくぎ付けになっている。
「普段の階段はこっちの12段。上には屋上へ出るための扉が見える。だけど、今日現れているのは隣の13階段。上は真っ暗なモヤに覆われてる……」
吉田さんがゴクリと唾を飲み込む音が聞こえてきた。
「こ、こんなのなにかの間違いだよ。じゃなきゃおかしいもん……」
「そう思うなら、13階段を上がってみたら?」
あたしはそう言いながら、スマホで時間を確認した。
この階段が消滅するまで、あと20分くらいだ。
少し上まで上がって下りてくるくらいの時間、十分にある。
しかし、吉田さんはなかなか歩き出そうとしない。
その時、吉田さんのスマホが震えた。
「メッセージだ……」
そう呟いたのが聞こえてきたので、思わず画面を覗き込んでしまった。
《マナミ:ミキコの言ってることが嘘だっていう証拠はとれたの?》
そのメッセージにあたしはようやく納得した。
突然吉田さんがあたしに絡んでくるようになったのは、マナミの存在があったからなんだ。
マナミからあたしの言っていることが嘘だと証明できるものを用意しろとか、そんなことを言われて来たんだろう。
吉田さんは返信する前に13階段を見上げた。
「どうしたの? 行かないの?」
あたしは吉田さんを見つめて言う。
あたしが嘘をついているかどうか知りたいなら、階段を上ってみるべきだ。
あたしはそっとスマホで時間を確認した。
階段が消滅するまで、あと15分だ。
「い、行くよ……」
そう言ってみても、やっぱり吉田さんはなかなか歩き出そうとしない。
一歩が踏み出せない気持ちは十分に理解できる。
あたしだって、闇へ向けて歩き出すなんて嫌だもん。
「ほら、簡単だよ?」
あたしは一段階段を上がって見せた。
吉田さんはマジマジとあたしの足元を確認している。
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