第16話

勇気のある先生が手に触れようとしたけれど、幽霊として出現させているため触れることはできない。



どうにかピアノの前からどかすことができないかと、スプレーをかけてみたり、虫取り網で捕まえようとしてみたり、お経を唱えてみたりと、先生たちがひっきりなしに音楽室を出入りする。



それでもどうにもならないものだから、想像通り音楽の授業は中止になってしまった。



「今日のは本当に怖かったよ!」



帰り道、ノドカが関心したように言った。



「えへへ、そうでしょ? 最初は音楽室で鳴るピアノってだけにしようかと思ったんだけど、どうせだから手だけ出現させてみたの。そっちの方が怖いでしょ?」



あたしの言葉にノドカはうんうんと、何度も頷いてくれた。



「明日はなにをするの?」



「ふふっ。ノドカは楽しみに待っててよ」



あたしはそう言うと、スキップをして帰路についたのだった。


☆☆☆


学校の七不思議を使うなら、次は13階段だった。



あたしたちが通う学校の怪談は全部12段しかないから、これもみんなビックリすると思う。



「あ、でも階段を出現させるってことは、階段が2つになっちゃうのかな?」



自室でスマホを取り出したあたしはふと呟いた。



このアプリでは何かを出現させることはできても、消すことはできない。



ということは、階段が2つになるということだ。



「どうしよう。階段が2つになっても同じ場所にたどり着くのかな? それとも、噂通り黄泉の国に行くとか……?」



考えてみたけれど、わからない。



「まぁいっか。どうせ本物じゃないもんね」



あたしが作っているのは偽物だ。



話しだって嘘をついているだけ。



だからそんなに気にする必要なんてない。



そう考えなおしたあたしは、スマホで13階段の写真を検索した。



その中で一番自分の学校に近い階段を探して、スクリーンショットを撮る。



その時だった、スマホがメッセージを受信した。



《吉田さん:いい加減嘘はやめなよ》



その文章にあたしは顔をしかめた。



あれだけ怯えていたくせに、まだあたしに楯つこうとしているのが腹立たしい。



《ミキコ:なんのこと?》



《吉田さん:わかってるくせに! どうせ全部作りものなんでしょう!?》



そう言われ、あたしは一瞬ドキッとしてしまった。



まさか、吉田さんもあのアプリについて知ってる……?



そんな不安がよぎる。



《ミキコ:幽霊なんてどうやって作るの?》



そう送ると、返事はなかった。



やっぱり、ただのハッタリだったみたいだ。



ホッと胸をなでおろして明日の準備を再開させる。



《吉田さん:あたしは信じないから》



負け惜しみのようなメッセージが届いて眉間にシワを寄せる。



ここまで疑ってくるなんてと、イライラしてくる。



どうにかして吉田さんを黙らせることができないだろうか?



そう考えたとき、ふと自分がスクリーンショットを撮った階段の写真が目に入った。



この階段を上がるとどうなるんだろう?



この階段を使っているときにアプリの効果が切れたらどうなるんだろう?



そんな、恐ろしい考え方が浮かんでくる。



あたしは強く左右に首を振ってその考えをかき消した。



アプリの説明書きにないようなことはしちゃいけない。



そう、思いなおす。



でも……明日、吉田さんにこの階段を上ってもらう方法はないかな……?



あたしは、そんなことを考え始めていたのだった。

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