第15話
☆☆☆
「うぅ……なんだか嫌な予感がする」
何くわぬ顔でA組に登校してきたあたしは呟いて席に座りこんだ。
あからさまに体調が悪い様子を演じる。
先に登校してきていた、マナミとリサはあたしの異変に気が付いているものの、話しかけようとしない。
きっと怖いことを聞かされるのが嫌なのだろう。
それが原因であたしのことをイジメていたのかもしれない。
「どうしたのミキコ?」
最初に声をかけてきたのはやっぱりノドカだった。
「昨日に続いて今日も強い霊の存在を感じるの……」
あたしの言葉に数人のクラスメートが近付いてきた。
「昨日は本当にすごかったよね!」
「今日も同じ霊がいるの?」
「ううん。今日はちょっと違うみたい」
あたしは答えながら眉間にシワを寄せて考えるフリをした。
「昨日の子は悪意を感じなかったけれど、今日は危ない感じがする」
「それって悪霊ってこと!?」
「そうかもしれない。この世に強い未練があるみたい」
あたしが考えてきた設定にみんなはキャアキャア騒ぎ出す。
「その霊はいまどこにいるの?」
「えっとね……あっちの方。なにか……音楽が聞こえてくる気がする」
あたしは音楽室の方向を指差した。
「それって音楽室じゃない!?」
ノドカがすぐに声を張り上げた。
その声に驚いたのかマナミとリサがビクリと体を震わせたのがわかった。
「行ってみよう」
あたしは他のクラスメートたちに連れられて、教室を出た。
音楽室に近づいてくると、だんだんピアノの音が聞こえ始めてきた。
「この時間って誰もいないよね?」
「わかんないよ? 先生が弾いてるのかもしれないし」
そんな会話をしながら音楽室の前に到着した。
中からは上手なピアノの音が聞こえてくる。
「こんな風にピアノが轢けるのは、きっと先生だね」
誰かがホッとした声で言い、その声に促されるようにしてドアを開けた。
と、その瞬間だった。
全員がその場に立ち尽くし、言葉を失っていた。
音楽室の中では青白い手だけが浮かび、ピアノを弾いている。
その指先はまるで生きているように動き続ける。
手が奏でる音色はとても情熱的で、だけどどこか悲しい雰囲気のあるメロディだった。
「い、いやあああ!!」
1人が悲鳴を上げて逃げ出すと、後はパニック状態だった。
逃げ出すことができた生徒はまだいい方。
昨日の吉田さんと同じように腰が抜けてしまい、立てなくなる子も何人もいた。
中には泣きながらハイハイして移動する生徒までいる。
その光景を見てあたしは笑わないように必死だった。
あたしが作りだした幽霊で、ここまでクラスメートたちが右往左往するなんて、面白すぎる。
「今回も大成功だね」
A組へ戻ってきたとき、ノドカがそう耳打ちをしていた。
あたしは小さく頷く。
けれども今回はこれだけじゃ終わらなかった。
なにせ5時間も出現し続けるように設定したものだから、先生たちも大パニックになってしまったのだ。
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