第7話

そして、ラクガキされているページを破り捨ててくれたのだ。



あたしは唖然としてその光景を見つめた。



「あんたたち、こんな幼稚なことして恥ずかしくないの!?」



「幼稚なのはミキコでしょ。霊感なんてあるわけないし!」



マナミが言い返す。



「まだそんなこと言ってるの? 幽霊は実在するし、霊感もあるのに!」



「あんたの方こそ、まだそんなこと言ってるの?」



マナミは呆れている。



あたしも正直、どうしてノドカがここまであたしをかばってくれるのかわからなかった。



2人を止めた方がいいと思って立ち上がるが、そこからどうすればいいかわからなくなってしまう。



「もういいじゃんマナミ。ノドカも一緒にいじめちゃおうよ」



リサが面白そうな顔つきで言う。



「そうだね! あんまり調子に乗ってたらどうなるか、2人同時に分からせてやればいっか!」



マナミはそう言い、大きな声で笑ったのだった。



マナミの宣言通り、その日からあたしたちへのイジメが始まった。



下駄箱には《うそつき》と書かれた紙が離れて、机の中にはゴミを入れられる。



さすがに気持ちが沈んでしまったけれど、ノドカは今までとなにも変わらなかった。



「ねぇ、今日はどんな幽霊を見たの!?」



教室内では明るく声をかけてくる。



「まぁた始まった! 嘘つきのデマ流しが!」



「嘘じゃないってば!」



マナミに何を言われても、ノドカは必ず言い返した。



「どうしてあたしと一緒にいてくれるの?」



休憩時間中、ノドカと2人で中庭でお弁当を食べている時、勇気を出して質問してみた。



ノドカは驚いた表情をあたしへ向けて「どうしってって?」と、首を傾げる。



「だって……イジメられてるし」



あたしは小声になって言った。



とても大声で言えることじゃなかった。



「それはマナミたちが勝手にやってるだけじゃん」



ノドカはさも当たり前のように言って、ほほ笑んだのだ。



あたしは驚いてノドカを見つめる。



「でも、あたしと一緒にいるからノドカまでイジメられてるんだよ?」



「そうだとしても、あたしは友達は自分で選べるもん」



そう言ってお弁当に箸を付けるノドカ。



美味しそうに卵焼きを食べる姿は、とてもイジメられているようには見えない。



あたしは自分のお弁当箱に視線を落とす。



さっきからちっとも減っていない。



教室へ戻ったら机にラクガキをされているかもしれない。



ゴミを置かれているかもしれない。



それとも、もっと他のことをされているかもしれない。



そう思うと、食欲がなくなっていくのだ。



「どうしたの? 食べないの?」



ノドカの言葉にあたしは首を左右に振る。



「食べるよ!」



そう答えて、ご飯を口にかき込んだのだった。


☆☆☆


「ねぇミキコ、今日の怖い話はなに?」



いつもと変わらない学校生活だった。



あたしは自分の机に書かれたラクガキを消しながらノドカへ向けて話し出す。



「あのね、あたし昨日金縛りにあったの!」



「嘘、体が動かなくなったの!?」



「そうだよ! 手も足も動かなくてさ、でも、目だけは動かせた」



「それで、どうなったの?」



「体の上がズッシリ重たくなって、黒いモヤが覆いかぶさってきたんだよ!」



「きゃー! 怖―い!」



「良く見るとそのモヤは見たことのないおじいさんでね、今朝起きたら何件か先のおじいさんが亡くなってて……」



「それって、最後にミキコのところに出てきたってこと?」



「うん。たぶんね」



そんな話をしているうちに、ラクガキは奇麗になる。



クラスメートたちは白けた表情であたしを見るけれど、あたしの心は安定していた。



こうして毎日嘘をついて。



気がつけばラクガキは消えている。



ノドカを引きとめておくために、あたしは毎日嘘を考えるんだ……。

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