第14話 初夜
「今年の大阪マラソンは、一般ランナーは中止になったんだねぇ」
ネットニュースで知って、話しかけた。
紗奈はエントリーしていないけど、どうなるかなぁと気にしていたから。
「そうみたいだね、ラン友さんが嘆いてたよ」
「しばらくは我慢の日々だね」
目に見えないウィルスが相手だから自重するのが賢明な気がする。
「早く、なんの心配もなく走れる日が来るといいなぁ」
「ほんとにね」
マラソンだけじゃなく、いろんなイベントや日常生活も、心から楽しめるようになるといいな。
そんなことに思いを馳せていたら。
「懐かしいな」という紗奈の声が聞こえた。
そういえば、紗奈も以前大阪マラソンに参加していたな。直前に手首の骨折をしていたために練習不足で、あまり良いタイムではなかったらしいけど、笑顔で思い出に耽っているみたいだ。
「楽しかったみたいだね?」
「ん? あぁ、大阪マラソンじゃなくてね」
ん? 笑顔というよりニヤけてないか?
まさか、あの事を思い出してるの?
※※※
ほんとは、大阪まで応援に行きたかった。付き合うことになって初めてのマラソン大会だから。
でも、仕事のオファーが来て、当日が打ち合わせになってしまった。
「私は大丈夫ですから、ちゃんとお仕事してくださいね」なんて言われる始末。
そうだよね、紗奈ちゃんはそういうところ厳しそうだから。少しでも仕事の手を抜いたら、幻滅されて嫌われてしまいそう。だめだめ、しっかりしなきゃ。せっかく両想いになったんだもの。
それでも気になるものは気になるし、応援もしたい。
打ち合わせをしっかり終わらせて、メッセージを送る。
『紗奈ちゃん、ファイト〜』
『大阪の街を楽しんで〜』
『ほんとに辛くなったらやめてもいいんだよ』
『無事に帰ってきて』
『好き』
あれ? 応援というより、私のただの願望になってしまった。恥ずかしい。
もちろん、走っている最中だから既読にはならないけれど。
夕方、待望の返事が来た。
『美穂さん、ありがとうございます。無事に完走しました。これから帰ります』
『うわぁ、おめでとう! 体は大丈夫? 気を付けて帰ってきてね、着いたら連絡してね』
『新幹線に乗りました。体は、あちこち痛いです。ほんとはこのまま美穂さんに会いに行きたいけど、痛いので家に帰ります。来週、会いに行ってもいいですか?』
『そうだよね痛いよね、無理しないでちゃんと休んでね。私も今すぐ会いたいけど、あぁ、どこでもドアが欲しい。来週、もちろんいいよ〜待ち遠しいな』
『美穂さん、応援メッセージありがとう。私もです』
『うん、ん? 何が?』
『好きです』
あぁ、好き。
翌週の日曜日。
紗奈ちゃんは、いつもの笑顔でやってきた。大阪のお土産をたくさん持って。
映画にでも行こうかという話も出たが、紗奈ちゃんの体調を考慮して家でまったりと配信の映画を観ようという話になったのだ。
さらに、何が食べたいか聞いたら「たこ焼き」というから今日は二人でタコパなのだ。なんでもエイド--コース途中の補給食--の、たこ焼きを楽しみにしていたのに残っていなくて食べられなかったからと。そんなに人気なの? まぁ名物だしね。
「美穂さん、さっそく焼きましょ! ソースは大阪で買ってきました」
得意げな顔で笑う。
生地や具材は、紗奈ちゃんが来る前に準備してあったので、焼くだけだ。
「筋肉痛はどう?」
「もうすっかり大丈夫ですよ。そろそろまた走りはじめなきゃ」
「さすが、若いねぇ。楽しかった?」
「はい、ザ大阪って感じでした。沿道の応援も途切れないし。あ、美穂さんの応援も嬉しかったです、ありがとうございました」
「え、見れてたの?」
「時計に出ますから」
そっか最近の時計は、凄いな。
「あ、さすが。本場のソース美味しい」
焼きたてのたこ焼きをハフハフ言いながら頬張る。
走りながら撮ったという写真を見せてもらったり、お土産話を聞きながら。
「でも練習不足だったから、辛かった。どこが、じゃなくて体全部が痛い感じ。あんなの初めてだったなぁ」
「よく頑張ったね。ご褒美あげなきゃね」
「え、いいですよ。そんな……」
「私があげたいの、今度までに考えといてね」
お腹も満たされて、リビングで映画を観ることにした。映画館っぽくするためにカーテンを引き薄暗くして、ソファに並んで座った。
映画の内容よりも、隣に座る紗奈ちゃんが気になってしまう。映画を観る真剣な表情を盗み見ては、可愛いなぁって思う。
ふと目が合った。
一瞬時間が止まったかのように。
それからゆっくり近づいてきたので、あぁ紗奈ちゃんも同じなのかなと思って、目を閉じた。
軽く触れられた唇は思った通り柔らかくて、すぐに離れてしまうのが名残惜しかったほど。
紗奈ちゃんは、「照れますね」と微笑んで、再び画面へと視線を向けたけれど、しっかりと手を繋いでくれたので、私は少し体を寄せた。映画よりも紗奈ちゃんを感じる幸せな時間。
エンドロールが流れ、あぁ終わったのかと思う。
「面白かったね」
あまり観てなかったけれど、そう言ってみる。
「--そうですね」
「もう一本観る?」
「いえ、それより--」
キスが降ってきた。二回目のそれは長く情熱的だった。
「--ん、紗奈っ」
「......っ、美穂さん! ご褒美、今貰っていい? 美穂さんが欲しい」
そう言いながらソファに押し倒された。
抱きしめられ頬が触れ、耳元で吐息とともに漏れる「好き」
ほっぺ、耳、うなじにキスを降らせながら紗奈の手は私のシャツのボタンを外していく。
「ごめん美穂さん、どんな映画か分からなかった。ずっと美穂さんに触れたいって、そればっかり考えてた」
初めて見る、紗奈の艶やかな顔を見上げる。
「私も同じだよ、紗奈」
頬に手を当て、私から口づけた。
「ん、美穂さん......それズルい......名前、もっと呼んで」
「うん? 紗奈っ」
あ、そうか。いつの間にか「ちゃん付け」取れてた。
恥ずかしそうに胸元に顔を埋めてくるけれど、手はしっかり私の胸に沿わせてる。ボタンは外れ脱がされるかと思いきや、そのままで。ブラの上からゆっくり撫でまわされ顔が熱くなる。ちゃっかり紗奈のペースじゃない?
「ねぇ、紗奈も名前呼んで?」
「美穂......さん」
「違っ」
「美穂......気持ち良くなって」
言うなり、ブラをずらし口に含んだ。
「はぅ…あん」
突然の刺激で、声が抑えられなかった。
もう一方も指での刺激が続いていた。
押さえたり摘んだり緩くなったり強くなったりと。
「あっ、紗奈」
堪らなく気持ち良くて、体がピクリと反応する。
胸から口を離したと思ったら、今度は唇に。すぐに舌が入ってきて絡め取られる。息継ぎをしながら何度も何度も。同時に紗奈の手は私のスカートを捲り上げ内股へと這わされた。
「うっ」
声にならない声をあげた。
下着の上からでも的確に、私の敏感な場所を捉える指。舌の動きと指の動きが連動しているみたいに。
「っは、紗奈、ちょっと待って」
「はぁぁ、、待て…ません」
紗奈も全力疾走したような荒い息をしているが、指は動き続けていて下着の脇から直接触れてくる。
「あっ、そこ、ダメっ」
一層大きな声になってしまって、紗奈の顔を見れば、口角が上がってる。
そのまま耳元で囁かれた。
「美穂、腰上げて」
素直に腰を上げたら、スルリと下着を脱がされて、そのまま脚を広げられて。
「えっ、ちょっと待って、なに?」
「美穂の全部が欲しいから」
「紗奈、やっ、だめ」
言葉ではそう言っても抵抗出来なかった。身体が紗奈を求めてる。紗奈の視線が私の中心を見つめ、舌が私の蜜を掬う。頭の芯が痺れて意識が薄れていく感覚。自分自身が発している喘ぎ声のはずなのに、遠くに聞こえる。
「紗奈、もう......」
大きな波がきて、抗うすべもなく果てた。
「美穂さん、ごめんなさい」
シャワーから出てきたら、紗奈はシュンとなっていた。呼び方も戻ってるし。
「別に怒ってないけど?」
ガバッと少しキツめに抱きしめた。
「私、余裕なくて。ソファも汚れちゃった」
「敷布洗えば大丈夫だよ。それに--」
「なに?」
「なんでもない」
「えー気になる、教えてよ」
「教えなーい。ほら、紗奈もシャワーしておいで」
「はい」
※※※
「そういえば美穂さん、あの時何か言いかけてやめたよね?」
「え、そうだった?」
相変わらず、紗奈は細かいことをよく覚えている。
「何だったの?」
「別に大したことじゃないよ。とっても気持ち良かったって事」
「えっ」
ふと見ると、真っ赤な顔で照れまくっている。それは良かったと呟いて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます