02 久米川
一方で、久米川に陣を張る幕府軍三万前後は、大将である
「
日中における
矢合わせとは、合戦の前に大将同士で
その矢合わせ無しで攻撃に入った新田軍に対し、幕府軍は虚を突かれるかたちになり、そしてそのまま押しに押され、こうして久米川にまで退く破目になった。
「必ずや、次もまた卑劣なやり方で来るに相違ない」
だが貞国としては、やり方が分かった以上、対応は可能と判じた。
ここで加治二郎左衛門が発言を求めた。
「では貞国どの、新田めは、どう出ると」
「……奇襲よ、奇襲」
酷くつまらなそうな表情をして、貞国は答えた。
寡兵で多勢を退けるなら、虚を突くほかあるまい。小手指原のように。
なら次は。
「大方、明朝にでも忍んでやって来るであろうよ」
「では」
副将の立場である長崎泰光がどう対応するか、短く問うた。
貞国は
「だからこその久米川よ。いいか、水音に耳傾けよ。馬が渡る音が聞こえたら、それだ」
貞国は幕府執権・北条家の一門として、兵法を学んできた。作法を重んじるきらいがあるが、決して無能ではない。でなければ、こうして叛乱軍鎮圧の将として任命されていない。
「いいか、それが聞こえたら、迎え撃て。しかるのちに……」
貞国は新田軍を撃退するべく策を開陳した。
泰光と二郎左衛門はそれを聞いて深く感じ入り、「さてこそ」と膝を打つのであった。
*
明朝。
夜明け前。
久米川。
新田義貞は、自身の率いる七千の軍に命じ、
馬には板を
「…………」
その無音の進軍は、幕府軍には悟られていないのか、張られた幕の向こうからは動きが感じられなかった。
義貞がまず岸に上がる。
次いで弟の脇屋義助が。
「…………」
義貞が片手を上げ、下ろす。
義助が、幕へとひた走る。
走りながら、無音で抜刀。
一瞬だけ義助が振り返ると、義貞が頷いていた。
朝日が昇った。
刃が光って、横薙ぎ一閃。
幕の向こうが、見えた。
「……お出ましだな、新田義貞」
そこには、幕府軍が満を持して、待ち構えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます