17.この後彼女はカオマンガイが好物になった。
「これ美味しいわね……なんていうのかしら……」
「それはカオマンガイだったかな、タイ料理だったと思うよ」
「へぇーー!!前に食べたのより大分美味しいわ。シェフを呼びなさい!」
「シェフってまた、大げさだなぁ……」
「いいじゃないの。それくらい美味しいんだから」
「そうなのか?ちょっと貰うぞ」
「あ、ちょっと!それ、私が使ったスプーン……もう……」
おかしい。こんなはずでは。
食堂に足を運んだ時点で、合計人数は三人だったはずだ。
ところがどうだろうか。食卓についた時点ではその人数が倍以上に膨れ上がっていた。
食事を選んでいるところでアテナが、食卓の場所を確保しようとしていたところで
俺 夢野 若葉 彼方
テーブル
アテナ 虎子 美咲
という塩梅だ。テーブルはかなりの長机なので、実際は美咲や、
この中では虎子と美咲は学生寮には所属しておらず、自宅からの通いなわけなのだが、どうやら、寮生と一緒ならば食堂や、大浴場といった施設を利用することは(システム的には)可能なようだった。
もっとも、そのシステムを維持するためのお金を出しているのは寮生(の家族)なわけで、実際にはその目も気にしてなのか、そこまで利用頻度は高くないらしいのだが、二人(特に虎子)はそんなことを気にせずついてきていた。まあ、別にそんなやっかみは無いと思うけどね。両方いい家の育ちだろうし。
取り合えず、話を聞きたいところだ。料理をむさぼっているなんとも意地汚い女神は……放っておくとして、まずはやっぱりこの二人だろうか。
「そういえば、仲直り、出来たんですね?」
その言葉に虎子が、
「ん?ああ、そうそう。おかげさまでな」
美咲が後を継ぐようにして、
「あの後、教室に行ったら虎子がいて。それで、その色々と」
色々ってなんだよいじらしいな。素直に「レストランに誘ってくれるなんて嬉しい」って惚れ直したんだろ?言わせるな恥ずかしい。
ただ、そんな妄想をよそに美咲は、
「それで、虎子と話してたんですよ。お礼を言いたいねって。いくら隣の席になったとはいえ、赤の他人じゃないですか。それなのに仲直りに協力してくれて、本当にありがとうございました」
軽く頭を下げる。虎子は「固いなー美咲は」と笑顔を見せつつも、
「でも、ま。
「いや、そんな……」
大したことはしていない。そう、していないのだ。
むしろ感謝をしたいのはこちらの方だ。喧嘩をする幼馴染百合カップルなんて、大分いいものを見せてもらった。勝手に覗き見たわけだし、観測器は二人には全く見えない代物なわけだから、説明するわけにもいかないけど。
虎子が、
「なんかお礼がしたいんだけど……何がいいかなぁ……」
考えだしてしまった。お礼なんてそんな。今すぐキスしてくれればそれで満足ですよ?
やがてポンと手を打って、
「そうだ。レストラン。一緒にいこうぜ。親睦の証として」
美咲も同調するように、
「そうね。折角同じ学校になったわけだし、仲良くしたいものね」
ちょっと待てやゴラお前ら。
そのレストランとやらはアレだろう。虎子が誘って美咲がオッケーしたやつだろう。二人で行ってきなさいよ。行って「これ、美味しいわね」「マジ?ちょっと分けてよ」「全く……ちょっとだけですよ。はい、あーん」「あ、あーんって……」「嫌ならいいけど」「あ、まって食べる食べる!」「どう、美味しい?」「うん、美味しい!」「あ、ちょっと……もう、口元汚れてるわよ」とかそうやっていちゃこらしてきなさいよ。俺には日時だけ教えてくれればいいから。その日は何としてでも日程を開けて、観測器飛ばすから。その場に俺をつっれてくなんて頭のおかしい真似はしないでくれ。いや、世間的には俺がおかしいんだけど、この場合は俺が正しいはずだ。だって、ここはそういう世界のはずなんだから。
とはいえ、真正面から断るのも印象が良くない。余り突っ撥ねてしまうと今後にも支障が出る。なので、
「あの、気持ちはありがたいんですけど……それは流石に……」
遠慮。なんていい言葉なんだろう。日本人で良かったと思ってしまう。謙虚が美徳とされているから、「そんな、私なんて」ってへりくだっても全然嫌な感じにならない。良かったよかった。これで丸く収まって、
「うーん……あ、じゃあ、一緒にあそこ行こうぜ。ディズ○ーランド」
二人で行ってこいや!
思わず叫びそうになったのをどうにかこらえた。なんでこのネコ女(※華の勝手な解釈です)はこういう時だけぐいぐい来るんだ。ギャップか?ギャップ萌えを狙ってるのか?いいから。そういうあざといのいいから。そういうのは美咲にやってあげて。
「ぷっ…………くすくす」
あと、そこ。笑ってんの気が付いてるからな地に落ちた女神。俺よりもその汚れた口元を何とかしろよ。
「口元」
「ん?」
「口元、汚れてるよ」
「え?どこどこ?」
なんでそこで周りを見渡すんだ。お前の口はどこについてるんだ。遠く離れた星に心臓がある大魔王デマ○ンじゃないんだから。
「ほら、ここだって」
仕方ない。食い気にステータスを全振りしたようなやつが知り合いってのもなんとも締まりがない。俺は食卓に備え付けられている紙ナプキンを取って軽く立ち上がり、口元を拭いてやる。
「んっ……ありがと」
素直に礼を言うアテナ。全く、こういう時だけ妙に可愛げがあるんだから。
再び椅子に座り、
「あの、やっぱり○ィズニーはちょっ……と……」
虎子の方を向いた瞬間。周りから向けられている視線に気が付く。かなり意外そうな顔をする
最初に口を開いたのは美咲で、
「虎子。お礼はまた、別の形にしましょう。その方がいいと思うわ」
次に夢野が、
「いいなぁ……」
続くようにして彼方と若葉が、
「華……もしかして、リアルでも?」
「節操ないのって嫌われますよ」
おかしい。なんだこれは。
一体俺が何をしたっていうんだ。ちょっとアテナの口元についている汚れを拭いただけじゃないか。
拭いただけ……
「口元」
「ん?」
「口元、汚れてるよ」
「え?どこどこ?」
「ほら、ここだって」
「んっ……ありがと」
アッーーーー!!!!!
駄目だ。これ字面だけだと完全アウトだわ。ちょっとだらしない元気っ娘と、それを介護する素朴な友人って感じだよ。完全に百合に発展するやつ。この手の組み合わせって、大体元気っ娘の方が依存してるんだよね。俺は詳しいんだ。
視線を向けると、首を傾げるアテナ。うん。それはない。これにそんな感情はあるわけがない。
ただ、実際にそれを理解してもらうのは難しいわけで、
「なんだかわかんないけど……じゃあ、なんか違う形でお礼するから。待っててくれよな」
と、一番話についてこれていないであろう虎子がしめる。結果として、二人のデートに割り込むという最悪の行為は避けられたけど、代わりになんだかよく分からない疑惑がかかった気がする。
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