13.100マイル超えの爆弾発言。

 と、まあそんなこんなで、無事に自分の部屋(正確には彼方かなたはなの部屋)にたどり着いたわけで、やることといえば荷物の整理なわけだが、


「荷物……」


 はて。


 一体あの段ボールには何が入っているのだろう。


 この寮生活は元々存在しなかったもので、俺がアテナにわがままをいってかなえてもらったものだ。その影響なのかは分からないが虎子と美咲は“最初の華と夢野の設定”を引き継いでしまっていた。


 そして、その代わりかは分からないが、無事に寮生活をすることとなった俺の元に届いた段ボールの中身についてはぶっちゃけ、一切の皆目見当がつかない。多分、衣服の類は入っていると思う。後は勉強道具とかだろうか。ただ、それ以外に関しては全くのブラックボックスで。楽しみ半分、不安半分と言った感じだ。


 彼方が、


「そうか、荷物。なあ、華。荷物整理するの、私も手伝っていいかな?ほら、親睦の証ってことで」


「え」


 さあどうしよう。


 ここで思いっきり突っ撥ねようものなら、不信感が増すのは間違いない。彼方のことだから「見ないで欲しい」と言われれば、一切触れないでいてくれると思うけど、そこに心の壁が出来るのは間違いない。


 しかし、しかしだ。


 あの段ボール箱の中に何が入っているのかは正直俺も良く分からないのだ。そんなものの整理を任せていいのだろうか。


 正直なところを言えば、自分だけで開封し、とんでもないものが入っていないかを確認してから、その整理を手伝ってもらいたい気持ちはある。


ただ、もし仮に「彼方には見せられないとんでもないもの」が入っていたとして、それを隠しきれる環境ではないのもまた確かだ。なんとなくで区切られているとはいえ、俺と彼方の部屋は完全地続きで、扉も仕切りもなにもないのだ。ここでごねたところで何か変わるとは思えない。


 まあどうせ、大したものは入っていないだろう。


 最終的にはそう結論付け、


「じゃあ、えっと……お願いします」


 それを聞いた彼方はなんとも嬉しそうに笑い」


「うっし。任されよう」


 意気揚々と、段ボール箱の方へと歩いていく。俺も後に続いて、


「結構あるねー」


 確かに。


 寮生活に必要なものを送っただけにしては大分荷物が多い。しかも箱によっては結構な重みがある。女子の衣服と言うのはこんなにかさばるものなのだろうか。それとも俺こと笹木ささき華は衣裳持ちという設定なのだろうか。そんな設定は要らないから、今からでも「百合カップルのキスシーンを目撃しやすい体質」とかにしておいてもらえないだろうか、今アテナがどこで何をしているのかは知らないが。


 ゆっくりと、手元の段ボール箱を開けていく。やっぱりというべきか、中身は学習参考書や衣服類がほとんどだ。大分雑多に入れてあるのは輸送の必要性が無いからだろうか。多分アテナによって、唐突にここに“出現”したんだろうしな。段ボール。突然ここに“あること”になっていたんだろうしな。段ボール。


「おや……?」


 彼方が、段ボール箱の奥に手を突っ込む。なんだろう。なにか見つけたのか。そんな変なものは入っていないと思うのだけど、あれか、ちょっときわどい下着でも入っていたのか。それだったら、あれだな。友達に冗談で貰ったとかそういう言い訳でなんとか。


「これ、『あの可憐な悪役に花束を』の最新巻じゃない」


「んぎゃーーーーーーーー!!!!!!!!」


 流石に、声は我慢できなかった。


 無我夢中で彼方の手元から本をひったくり、段ボール箱を取り上げ、未開封の段ボールも出来る限り自分の背中に隠すようにして、あがってしまった息をなんとか整えながら、額から伝う一筋の汗をぬぐって、にこやかアルカイックスマイルで、


「な、なんでもありませんよ?」


 なんでもないわけがなかった。


 最早説明するまでもないが『あの可憐な悪役に花束を』というのはガッチガチの百合漫画である。

昨今ちょっと流行りを見せている悪役令嬢ものを百合に変換したという類のもので、最初に出てきたものはそのタイトルもあって全く触れていなかったのだが、たまたま本屋で立ち読みしていこうすっかりはまってしまい、今では最新巻の発売日には必ず本屋に行って特典付きをゲットし、帰りの電車内では、不審者として通報一歩手前の気持ち悪い笑みを浮かべながら読むという大変はまっている作品である。


 もし佐々木ささき小太郎こたろうが寮生活を行うのであれば確かに必須の本であり、最新巻の発売日には授業を休んで買いに行くこともいとわないレベルなのは間違いないが、今ここにあっていい本ではないし、まかり間違ってもルームメイトの彼方に見られていい代物ではない。


 最早、誤魔化しはきかない。


 一度タイトルと表紙をがっつりと見られ、それを必死で隠す姿を見せてしまった時点でゲームオーバーだ。華やか女子寮生活は、なんとも気まずい時間に早変わりだ。困ったなぁ……アテえも~ん!記憶を弄る機械出して~!


 と、俺が。まあしょーもないことを考えていると、彼方が一言、


「えっと……もしかして、だけど、百合好き?」


 直球だった。ど真ん中180km/h。アロルディ○・チャップマンもびっくりの真っ向勝負。流石にかわすことは出来ない。俺は諦めて小さく縦に頷き、


「いやー!こんな偶然ってあるんだね」


 なんだ彼方が楽しそうにし、


「仲間仲間。私も好きなんだ、こういうの」


 とんでもない爆弾を放り込んできた。

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