第6幕第1場 My fool usurps my body.
第53話 第6幕第1場 My fool usurps my body. 1
私立槍振学園のグラウンド――
タナトス襲撃の最前線にして、最後の砦のこの学園のグラウンドに一際不気味なタナトスが舞い降りようとしていた。
「オオワシのタナトス……」
サーヤ・ハモーンが震える瞳でそのタナトスを見上げる。
震えは今や全身を襲っていた。
サーヤの持つ鞘にもそれは伝わり、その手の中で細かく震えていた。
「降りてこようとしてやがるな……好都合だ……」
葉可久礼が背中のサーヤの様子に気づかず刀を腰の前で構えた。
「何よ、この大きさ……人の背丈の何倍あるのよ……」
鵐目小太刀もオオワシのタナトスを見上げる。
まだ手が届かないほどの上空を滑空しているそれは、横切る度にその影で小太刀達をすっぽり覆い隠していた。
「羽もやばいな……人間様が何人入るんだって感じの大きさだ……」
「ええ、ヒサノリ……あの大きな羽の抱擁で、犠牲者を死に至らしめるのよ……」
サーヤが久礼の背後でポツリと呟く。
「詳しいな、サーヤ」
「これと同種に、母様と父様は命を奪われたわ……」
「サーヤ……」
「ヒサノリ……このタナトスなら、私の願いは叶うかも……」
久礼が振り返ると、サーヤがうつむいていた。
鞘を掴むその手は、震えを止めようと固く握られていた。
「おっ!? そうか? こいつを倒せばいいんだな! 任せ――」
サーヤの顔を覗き込もうとした久礼の眼前に、不意に何かの刃が突きつけられた。
「――クナイ!? アブね!」
久礼は背後にサーヤをかばいながら必死に上体を後ろにそらした。
避けなれば額を切り裂く軌道で、クナイが仰け反る久礼の上を振り抜かれた。
クナイは久礼の髪をわずかにかすめて空を斬る。
「――ッ! てめぇ!? 庵!」
久礼は少し切れてしまった髪を額からはらりと落としながら、クナイの持ち主に刀を受けて向き直った。
「そうだよ、久礼くん!」
それはもちろん鯉口庵だった。
庵はやはり女子の制服に身を固めていた。
だがクナイを逆手に構えたその顔は、いつになく真剣そのものだった。
「何しやがる!? タナトスが攻めてきてんだぞ!」
「館内放送を聞いてなかったのかい?」
庵は風にスカートをはためかせながらアゴでくいっと虚空を指し示した。
「館内放送だと?」
「……繰り返す。1年3組サーヤ・ハモーンを捕縛せよ! 怪我の有無は問わない。繰り返す――」
聞こえてきたのは、生徒会からのサーヤ捕縛の命だった。
「何だと!? タナトス襲撃のこの期に及んで、まだサーヤをつかまえようってか?」
「姉様……」
サーヤがその場にいない姉の姿を探して首を巡らせる。
「そういうことだよ。僕は、お姉ちゃんに直接頼まれたけどね。僕の狂気で、サーヤさんを捕まえる」
「庵! 状況分かってるのかよ!?」
「君こそ、何も分かってない。久礼くん。僕はさっきお姉ちゃんに聞いたよ」
クナイを握る庵の手に力が入る。
「はぁ? 何の話だ」
「サーヤさんは――」
庵が何か口にしたかけたその時、オオワシのタナトスがついに久礼達に襲いかかった。
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