第5幕第4場 We have bucklers of our own.
第51話 第5幕第4場 We have bucklers of our own. 1
一体のタナトスが突然ガラス窓を破った廊下。
粉々に砕け散ったガラスが、当たり一面に飛び散った。
「シースちゃん! We have bucklers of our own!」
その破片がシースに向かって飛んでくると見るや、峰子がとっさに相手の前に飛び出した。
そして流暢なスペルで、その前に見えない盾をすぐさま展開させる。
ガラス片がシースの直前で全て弾き飛ばされた。
だが新入生の多いこの一年の教室の廊下では他の者は違った。
「キャーッ!」
女子生徒の悲鳴がそこそこで上がる。
侵入したタナトスはたった一体だったが、それが飛び散らかしたガラスの破片が辺りを混乱に陥(おとしい)れる。
「おい! 誰かなんとかしろよ!」
「うるせぇ! 自分でやれよ!」
そして廊下をやみくもに飛び回るツバメのタナトスは、多くの新入生には目に捉えることもできずに余計に恐怖心をあおった。
さらに後続の別の鳥類のタナトスが、ツバメのそれに続いて校舎に向かってくる。
それらはもちろんガラスを打ち破って侵入してくる。
新たに飛び散るガラスの破片と、飛び込んでくるタナトスに廊下は恐慌状態に陥(おちい)りかねなかった。
「Present fears Are less than!」
そのパニックをシースの一喝が鞭のように打つ。
「――horrible imaginings. 落ち着け。ひよっこども。自ら生み出した恐怖に負けるな」
シースが冷静にそう続けると、新入生達のパニックがゆっくりと静まる。
「騎士よ! 戦う意思のあるものは、私に続け。貴様らの精気。今は、私が抜いてやろう――Palm to palm is holy palmers kiss!」
シースの言葉に反応し、何人かの新入生の体が光に包まれる。
「会長!」
「Give us the swords!」
シースの続いてのスペルで、騎士の生徒の手に各々武器が現れた。
それは種類も形もまちまちで、お世辞にも立派なものとは言えなかった。
ましてや構える姿もぎこちない。
だが新入生達は引きつった笑みとともにタナトスに向かって構えてみせる。
「スペルマスターの皆! We have bucklers of our own! さあ、唱えて! それで、自分を守るのよ!」
峰子が自身も不可視の盾を展開しながら新入生に呼びかける。
峰子の呼びかけに、幾人かの生徒が目の前に見えない盾を作り出す。
「これでいい。足の速いタナトスなど、力の方は大したことないはず。我々は、後続のタナトスを――」
シースが窓の向こうに目をやる。
鳥類以外のタナトスが、ゆっくりとそれでも宙を駆けながらこちらに向かってくるところだった。
そこには先に久礼が戦った犬型のタナトスもいた。
「――ッ! 葉可久礼!? 消えた? しまった――サーヤもか!?」
そのことで久礼のことを思い出したシースが慌てて振り返るが、サーヤとともにそこには二人の姿はなかった。
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