第45話 第5幕第1場 Beauty provoketh thieves sooner than gold... 2
「キャーッ! キャーッ! ペンギンよ! ペンギン! コダチ、見て!」
「うん! 可愛い! 何で、ガラス越しなの!? 触れないの!?」
「触りたい! なでなでしたい! ギュッとしたい!」
「そうね! ああ、サーヤちゃん! あっちで、ピョンピョンって跳ねてる!」
水族館の館内。女子二人が、ペンギン舎のガラスの前で、そのペンギン以上に〝ピョンピョン〟と飛び跳ねていた。
ペンギンを飼育するコーナーは、その室温を保つ為ガラスで仕切られていた。
そのガラスにすがりつくような勢いで、サーヤと小太刀が興奮にまくし立てている。
「スゴイ! So Cute! ねえ、コダチ!」
「キュートよね! 反則よね!」
「何気に、いい場所とったわ! ペンギンが、あっちもこっちも一望できる!」
「ここは死守よ! サーヤちゃん! このベストポジションで、ペンギンを余すことなく堪能するわ!」
「女子どもめ……」
久礼はその様子についていけず、一歩離れた位置で呆れていた。
「可愛いってだけで、何故そこまではしゃげる?」
「可愛い以外に、何が必要なのよ? ねーっ! サーヤちゃん!」
「ねーっ! コダチ!」
「くそ。息ぴったりか……俺はどちらかと言うと。入り口すぐにいたオオサンショウウオの方が惹かれたな。狭い水槽の中で、愚鈍に重なるあの姿。哲学すら感じるあの押し合いへし合いの重層構造。他者を下敷きに少しでも上に這い上がりながら、それでいて登り詰めた地位も大して高い訳でもなければ、代わり映えする訳でもない。現代社会の縮図のようなあの群れ方。あれ、良かったよな? なあ、庵?」
久礼が同意を求めて隣にいるはずの庵に振り返った。
「あれ、いない?」
「可愛いっ! あれ、お子様ペンギン!? 僕みたいな男の子かな? ちっちゃいけど、立派にちょこんと立って!」
だがその姿はそこにはなく、いつの間にか庵もサーヤ達の輪に加わっていた。
「庵……お前まで……」
「何、引っ込んでんのよ、ヒサノリ?」
サーヤが不意に久礼に振り返る。
「別に……ノリについていけないだけだ」
「ほら、こっちきなさいよ! 可愛いわよ! So Cuteよ!」
「いきなり、英語で言われても分からん」
最後はサーヤに袖を引かれ、渋々と久礼はその隣に並んだ。
「むっ! これぐらいは、分かるでしょ? とっても可愛いって言ってんの! ほら、見なさいよ!」
「お、おう……」
サーヤに促されて、久礼が実際に見たのはサーヤの横顔だった。
サーヤはペンギンの姿に興奮し、赤い髪越しに紅潮した頬を見せている。
「てか、何だな。ペンギンは突っ立ってるだけでいいんで、気楽だな」
その頬にしばし目を奪われた久礼は、慌てたように視線をペンギン舎に向ける。
「いいじゃない! あれだけ可愛ければ!」
「可愛いねぇ……」
久礼はそう呟きながらペンギンを見るが、すぐに視線がサーヤに戻ってしまう。
「……」
その様子を小太刀が横目で盗み見た。
「よし! 庵くん! グッズ見に行こう!」
小太刀は次の瞬間、庵の手をとって立ち上がる。
「えっ!? 鵐目さん? 僕、もっとペンギン見ていたい」
「何、言ってるの庵くん? このペンギン達が、ふわふわでもこもこのグッスになってるのよ!」
「――ッ! そ、それは……」
庵がショックを受けたようによろめいた。
「ぐずぐずしていていいの? ここの場所のキープは、久礼とサーヤちゃんに任せて。アタシ達は可愛いグッズの死守に行くべきじゃない?」
「た、確かに……」
「じゃあ、久礼! サーヤちゃんと、このベストポジションのキープをお願いね!」
「おい、小太刀。急に何だよ?」
「分かったよ、こっちだね? 行こう!」
「おい、小太刀ってば」
久礼が慌てて呼びかけるが、小太刀と庵の姿はあっという間に建物の角の向こうに消えた。
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