第4幕第1場 A document in madness!
第34話 第4幕第1場 A document in madness! 1
約束の三日後。その放課後。
槍振学園第3屋外鍛錬場――
晴れた空に明るい太陽が昇るその日。
「さあ、覚悟!」
屋外に設けられていた床面コンクリート張りの鍛錬場に、鯉口庵の威勢のいい声がこだました。
庵は真っ直ぐに木刀を前に構える。
本人の気概そのままに、木刀はその目の前に立つ人物に向けられた。
だがその気迫とは裏腹に、その足元では可愛らしいまでにスカートの裾が風で揺れていた。
「……」
対する葉可久礼は手にした細長い袋を片手に無言で立っていた。
こちらはまた戦闘態勢ではないと言いたげに、庵に対して斜めに体を向けている。
そしてその久礼の目の下には、寝不足らしきクマがうっすらと浮かんでいた。
学園の西の端に位置するこの屋外鍛錬場。
白胴着と白袴に着替えていた久礼が、女子の制服姿の庵とその中央で対峙していた。
久礼の横には一年生女子二人が、庵の後ろには一人の二年生女子がそれぞれ付いている。
サーヤ・ハモーンと鵐目小太刀が久礼の横に並んで立ち、鯉口峰子が庵の後ろに控えていた。
そしてその周りを騒ぎを聞きつけた生徒達が、野次馬に集まり、ぐるっと何重にも人垣の輪を作っている。
「さて……」
久礼が長い袋から中身を取り出した。
「あら? あんな立派なもの持ってるのね」
その中身がわずかに見えると、庵の後ろから峰子が興味深げに呟く。
「それって……あの時の……」
サーヤがそこから出てきたものに軽く目を見開く。
日本刀だ。
「なっ!? 日本刀だなんて、卑怯だぞ!」
「別に。これはただのデモンストレーションだ」
久礼が庵の方にようやく向くと、腰帯に鞘ごと日本刀を差した。
「庵――」
久礼がすっと腰を下ろし、刀の柄に手をやりながら相手に呼びかける。
「何だい、久礼くん」
「三日間……女子の姿で俺を惑わす作戦は、見事だったと褒めておこう!」
「なっ!? 何を言って!?」
「教室でも、寮でも……可愛らしい姿で、俺の視界にチラチラと入りやがって……」
久礼はいまにも刀を抜くような姿勢を保ちながら、態とらしくその左右の手を震わせた。
「君の隙を狙ってたんだよ!」
「狙ってだと!? 狙っていただと!? くそ! 狙ってあの可愛らしさか!?」」
「そういう意味じゃないよ!」
「しかも部屋に帰ると、生着替えまで始まる始末だ……男子寮の部屋で、帰ってきたらいそいそとスカートのチャックに手をやるって――どういう状況だ!?」
「君の出した条件だよね!?」
「しかも、着替えてる時は、後ろを向かされるんだぞ! それも着替え始めてから、気づいたように言われるんだぞ! 少し見せつけられた後に、後ろを向かされるんだぞ! 余計に想像力が働いてしまうわ! 眠れんわ!」
「ちょっとヒサノリ……目の下にクマ作ってると思ったら……そんな理由だったの……」
「何を熱く語ってるのよ、アンタは……」
サーヤと小太刀が額と顔をそれぞれ手で覆った。
「そ、それは! だって……恥ずかしいし……」
「キャーッ! 可愛い!」
真っ赤になった庵に女子陣から黄色い悲鳴が上がった。
「しかも……部屋着はおろか、パジャマまで女子のものとは……夜も目がギンギンに冴えて、眠れなかったぞ、俺は!」
「主に、君の所為だよね!」
「だがしかし――一緒に生活してこそ分かった。お前、それほど剣の腕はないと見た。少々寝不足でも、剣で俺が遅れをとることはないね」
「何を――」
庵が聞き返すよりも先に、久礼はすっと前に進み出た。
コンクリートの床を久礼は音も立てずに庵に近づく。
「なっ……気配が……」
「ハッ!」
驚く庵を無視し、久礼の裂帛の気合が青空の下にこだました。
そう。それはまさに一閃だった。
「み、見えなかった……」
庵の手元から木刀が滑り落ちた。
いや実際には、柄から上の部分だけがすっぱりと切り落とされた。
庵の手元に柄だけ残し、音を立てて木刀が地面に転がる。
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