第30話 第3幕第4場 I would you were as I would have you be! 2
「いいだろ? この間は、成功したろ?」
サーヤの呟きは、最後の方は久礼には聞こえなかったようだ。
「まあ、確かに初めてにしては、成功したけど」
「そうだろ? あっ? いや……まだだな……俺達はまだ――成功してない……」
「どうしたのよ、久礼? 急に真面目な顔して」
小太刀は急に殊勝な表情をし出した久礼の顔を、サーヤの肩越しに覗き込む。
「いや、小太刀。俺思うんだ。最後までやり遂げてこそ、初めて成功だって。俺たちはまだ、成功などしていない」
久礼は小太刀に答えながらサーヤを真剣な眼差しで見つめる。
「そうね。雑魚タナトスを、倒しただけよ。やっと分かってくれた?」
「ああ。一回手で抜いてもらっただけで、あれを成功だと言われると、かえって残酷……」
「はい? 久礼? ちょっと、アンタ何言って……」
「そうそう。まだ精気を手で抜いてもらっただけ。手で抜いただけで、成功とは片腹痛い――まさに、手抜きでしかない。それは手抜きだと、こき下ろされても仕方がない」
「そ、そうなの?」
「そうだ、サーヤ! これではまだドーテーだ! 俺達はセイコーなど、断じてまだしていない!」
久礼がドンと机越しに身を前に乗り出した。
その迫力と言葉に教室に残っていた他の生徒たちが一斉に振り返る。
「ど? ドーテー? 知らない日本語ね」
覆いかぶさるよう身を乗り出してきた久礼を、サーヤが目を白黒させて見上げる。
「久礼!」
「道程だ。まだ何もしていない! 道半ばという意味だ! 男なら、誰でも通る道だ!」
「そ、そう?」
久礼の迫力にサーヤがタジタジになりながら訊き返す。
「そうだ! 男は皆、成功するまでは、道程の苦渋を味合うものなのだ」
「久礼……アンタね……」
「そう。道程を彷徨う男の姿は、その本人以外は分からない苦難故、いつも珍妙――トンチンカンで、チンプンカンプン。まさに珍奇な珍道中とでも呼ぶべき沈痛なものなんだ」
「や、やけに、チンが多いわね」
サーヤが久礼の気迫と、その内容についていけず目を白黒とさせた。
「それに振り回されるのが、ドーテーの苦しみだからだな」
「そうなの? 大変ね」
「そうだ! よし、じゃあ言ってみろ! 俺を道程から救い出し、サーヤは俺と成功したいって!」
「何でよ?」
「バディだからだ! タナトスを倒したいと思わないのか!?」
「それは……そうだけど?」
「だったら、誓うところから始めよう! さあ、教室の皆さんに聞こえるように!」
久礼が真剣な表情をあっさり捨てて、いたずらっ子のような笑みでサーヤを促す。
「へっ? へっ? えっと……私はヒサノリをドーテーから救い出し、あなたとセイコ――」
「しなくっていいから! サーヤちゃん!」
「――イテテッ! 耳を引っ張るな、小太刀!」
「おかしなこと! サーヤちゃんに、吹き込むな!」
小太刀が大きく身を乗り出し、久礼の耳を思いっきり引っ張った。
久礼の耳がこれでもかと引き伸ばされたその時、
「あはは。久礼くん。女子と昼食とは、余裕だね」
背後から不意に声をかけられた。
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