第3話 第1幕第1場 O happy dagger! 3

「おお……」


 その再開されたコンボに、周りの生徒達からどよめきが上がる。

 同時に四方八方からスマホのフラッシュが焚かれた。

 そしてそのままスマホの上を指が滑るように踊った。


「撮んな、上げんな、拡げんな! 男子共め! 久礼も! いつまで揉みしだいてんのよ!? アンタは!」

「これは……あれだ! 小太刀! 本能的に、男としてだな!」

「何を言って……」

「違う! 不可抗力だ! 体勢が悪くって、一ミリも動けんからだ! 決して役得では――」

「必死に首振って否定してもダメよ! その鷲掴みの手が何よりの証拠よ!」

「ん……私……」


 久礼の必死に左右に首を振るその動きに揺さぶられ、ようやく赤毛の女子生徒が目を開けた。

 薄っすらと開いたまぶたの向こうに見えた瞳の色。それすらこの女子生徒は赤かった。

 ようやく弱々しく開いた唇も、鮮やかな朱に染まっている。

 赤を基調とした制服と相まって、全てが赤から生まれたような少女だった

 そして少女は開けたばかりのおぼつかない赤い瞳で、己の胸元を見下ろした。


「――ッ!」


 そこでは見知らぬ男子生徒の手が、がっつりと己の左の胸を鷲掴みにしている。


「なっ……ななな……」


 目を開けて最初に飛び込んできたその光景に、信じられないとばかりに少女のまぶたが見開かれていった。

 赤毛と瞳に負けず劣らずの鮮やかさで、少女の頬が耳まで真っ赤に染まっていく。


「おっ!? 気がついたか? 大丈夫か?」

「へっ?」


 少女は声のした方へと、ぎこちない動きで首を傾げ見上げた。

 心配げな表情で、優しく微笑んでいる男子の顔。

 決して美男子ではないが、鍛えられた精悍さがその顔には見受けられた。


「――ッ!」


 少女はその突然の異性の顔に――何よりそのあまりの近さに息を飲む。


「礼はいいぞ。女の子は助ける。何があってもだ。俺、兄弟は上も下も女ばかりでな。姉ちゃん達に、そう誓ってんだ」


 手を伸ばして少女を背中から抱え込んで、快活に笑う久礼。

 当然その顔は息もかかるほど――いや、互いの息が飲み込めるほど近かった。

 今にも奪われんばかりに近づいている唇。

 力一杯抱きしめられている柔肌。

 相手の姿しか見えない距離にあるお互いの瞳。

 そして何より、しっかりと掴まれている胸――


「イィィィヤァァァーッ!」


 ようやく事態を飲み込めた女子生徒が右手を振り上げ、


「イテッ!」


 清々しいまでの殴打の音がハレの日の校門前に響き渡った。

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