ヒィンクスの宝箱
新河誠
第1話 ヒィンクスの決心
ある日、マッチンローリーという街は前夜に降った雪で銀世界になっていました。街の子供たちは雪を見て大はしゃぎ。ですが、その街で一人だけ全く喜ばない子がいました。街の外れでお婆さんと住んでいるヒィンクスという男の子です。その子は一年中、外に出て遊ばずに家で過ごしていました。それに加えて、あまり人と喋らないのでお婆さん以外はマッチンローリーの人を誰も知りませんでした。あまりに外に出ないのでお婆さんはとても心配していました。今日も外で楽しそうに雪遊びをしている子供を見て、お婆さんはヒィンクスを外に出す方法を考えていました。すると、外で遊んでいる子供が宝箱で遊びはじめました。それを見た瞬間、お婆さんはヒィンクスを外に出す方法を思いつきました。すぐさま二階のヒィンクスの部屋へ向かってヒィンクスにこう言いました。
「ヒィンクス、今日は雪が降っているねえ。実はおじいさんの家の大きな庭にヒィンクスの一番大切なものを隠して埋めている宝箱があるの。本当は今日から、中身を確認するために掘り返しに行きたかったんだけど、おじいさんが言うには最近の雪で庭のどこに埋めたか分からなくなったらしいの。どうしよう」
ですが、ヒィンクスは出て来ませんでした。お婆さんは考え続けました。すると、お婆さんは厚手のコートを着こんで家の外に出ました。庭には、お婆さんのお腹あたりまで雪が積もり、とても、歩けるような状態ではありませんでした。しかし、お婆さんは前に進もうと必死に足を動かし、少しずつ間に進んでいました。歩く途中でお婆さんは何度も転けました。
その様子を部屋の窓から見ていたヒィンクスは「僕の大切なものが入っている宝箱を掘り返しに行ってくれようとしているんだ。僕のなのに、あんなに無茶してる。本当は僕が行かないといけないのに…。でも、外に出るのには勇気がいるし。でも、お婆さんにあんな事させれない」と、頭の中で思い悩んでいました。生まれてから数回しか行ったことのない街、一度も話したこののない街の人々のことを考えるとヒィンクスは外の世界がより怖くなりました。でも、その恐怖心を振り払って「僕のためにあんな大変なことはさせられない!よし、外に出よう!」と意気込み、部屋を出て家を飛び出しました。そして、お婆さんを呼び止めました。
「お婆さん」
「ヒィンクスかい?」そう言って後ろを振り向きました。
お婆さんの顔を見て、ヒィンクスは驚きました。お婆さんの目には溢れんばかりの涙が光っていました。
「泣いているの、お婆さん」と、お婆さんにヒィンクスが聞くと、
「もちろんさあ。ヒィンクスの声を聞くのは何年ぶりかねえ。それで、何の用だい?」
「ああ、そうだった。お婆さんが言っていた僕の大切なものが入った宝箱を確認しに行こうとしてくれているんでしょう。僕が行くよ。僕のものだし。だから一回、準備のために家に戻ろう」
そう言って、お婆さんとヒィンクスは家に入りました。
さて、お婆さんの家からとても離れているおじいさんの家までの道中でヒィんクスは何をして、何に触れ、何と出会うのでしょう。
つづく…
第一話 [終]
ヒィンクスの宝箱 新河誠 @makotosinkawa1234567890
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