第9話切ない気持ち



魔法陣で飛ばされたあのダンジョンから街に戻って、私たちは一度宿に戻った。


私の服もローブも、まだ濡れてて気持ち悪いから、急いで着替えてさっぱりした。



で、今みんなで酒場に集合してるんだけど、私は聖女ムーブをやめ、普段の私でみんなと接している。


いやーー、もう、すごーく楽!


やっぱり私に清楚な聖女ロールは無理ゲーでした。



シオンには無理してるのバレてたし。



「それにしても、フェルマが魔物の群れに飛び込んで行った時は焦ったよ。聖女に攻撃魔法はないし、素手だったし、まさか自分を犠牲にしようとしてるのかと血の気が引いちゃった」


イグニス様が肩をすくめて言うので、私はしゅんとした。


「うう、心配させてしまってすみません」



「俺は前科知ってるから大丈夫だろうとは思ったけど、あそこまでとは思わなかったな」


「前科って何?」


不思議そうなイグニス様に、シオンは私が絡んできた男たちをぶっ飛ばした話をしてしまった。


……まあ、いいか。もう全部知られちゃってるんだもんね。


イグニス様たちはまた爆笑してたけど、もういいんだ。今日はやっとやってみたかったこと、出来るし。



今、私の目の前にはお酒のジョッキがある。


初めて飲むんなら、甘くて飲みやすい、果実酒がいいってリアナが教えてくれたの。


そう。もう、脳筋聖女を曝け出したんだもん。いくら飲んでもいいんだもんねー。いざ飲まん!


ぐび。



うわーおいしーい!!



いくらでも飲めそう!



「おい、あんま調子乗ってがぶがぶ飲むなよ」



シオンが苦言を呈してきたけど、へへーーん。私は腐っても聖女。もし酔っても状態異常を回復する魔法で治せるのだ!


神殿にいた頃も、ひどい二日酔いの人をよく治してたんだよね。



……ーーーーーーと、私にもそう思っていた時期がありました。



「きゅ、きゅあ(キュア)~~……」


ぼしゅ、と立ち消えてまた発動しない魔法。


なんと酔いすぎた私は魔法の発動をミスしまくって、ぐでんぐでんになってしまった。



「あーあ、だから言わんこっちゃないって」


シオンの呆れた声と、


「うーん……確かに残念聖女かもしれない……」


笑いを含んだイグニス様の声がぽやんとした頭に響く。


「シオン、フェルマを宿に連れて行ってあげてよ」


「ーーーま、しょうがねえな」


ぽわーとしていると、ふわっと体が浮いて、シオンが私を抱きかかえていた。



今はあの認識阻害のローブを着ているから、顔は見えない。でも雰囲気で、なんとなく今笑ってるんだろうなって思った。



「お前、もうこんな飲み方すんなよ」


「ふあい……分かりましたぁ」



シオンのぬくもりと匂い……なんか安心するなあ。



「あはは、シオンの抱っこ気持ちいいよー」


上機嫌で言ったら、



「……ったく、無防備すぎだろ……」


「んーーーー?何てー?」


「何でもない……」



宿の部屋に着くと、シオンは私をベッドに下ろしてから、


「もう眠いだろ。寝ろ」


そう言って毛布を掛けてくれた。



「うん……眠い。おやすみシオン」


とろとろと眠気に抗えなくなって、瞼が閉じていく。



「おやすみ」


ぽんぽん、と頭を撫でられた。



その手の暖かさに、ふと、ダンジョンでのシオンの美しかった顔と、シオンの熱い肌の感触が甦ってきて……


また、きゅ、っと胸が苦しいような、切ないような。



これ、何なんだろうな。気持ちいいな……





ーーーーーー夢うつつに、唇に何かが触れたような気がした。





気が付いたらいつの間にか、朝になってた。



うう、頭が痛い。ぎぼぢわどぅい……


でも今度はばっちり状態異常回復の魔法が発動して、すぐに元気になったけど。



……うん。もうお酒はほどほどにしよう。

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