第8話ぬくもり sideシオン
「皆さん!少し後ろに下がっていて下さい!私が前に出ます!」
フェルマがそう叫んだ時、俺はイグニスやリアナみたいに驚愕はしなかった。
昨日、アレを見たからな。
ただ、ああ、やる気になったんだなと思った。
が、そのあとは完全に予想外だった。まさか一人で、残ってた魔物を全て叩きのめすとは思わなかった。しかも、めちゃくちゃに楽しそうな顔で。
やばい奴だな、と唖然としたが、ーーーーーーこいつ、面白いなとも思った。
そうしてあっという間に魔物を一掃してあいつが言ったのは、
残念聖女でごめんなさい、だった。
あんなにイグニスが爆笑してるのは初めて見たよ。俺も肩が震えるのを抑えられなかったな。
俺らをがっかりさせたくなくて、一生懸命聖女っぽく振舞ってたらしいって分かった時は、なんか、いじらしいなと思った。
でもそういうの、もういいんだ、作らなくていい、ってイグニスが言ってやったら、泣き笑いみたいな顔になってたな。
そのあとこっちに来ようとして、床が光った。
俺はすぐ分かって、飛び出してフェルマを魔法陣から突き飛ばした、いや、付き飛ばそうとしたんだが、やっぱり間に合わなくて、ついでに俺まで一緒に転送されちまった。
転送先は同じダンジョンの別の場所だろう、場の匂いが似てるから。
地下水か知らないが床がびしょ濡れで、倒れた時にローブも下に着てた服も全部濡れちまった。
こういうのは早く脱がないと体温が奪われて、弱ってしまう。
だから、フェルマにもすぐ脱ぐように言った。
そしたら、こっちを見て固まってた。
ああ、そういえば俺が認識阻害のローブを脱いだから、初めて俺の顔を見たんだった。
それで、イグニスの時みたいにぽかーんとして俺の顔をひたすら見てるから、俺はついおかしくなって笑った。
造ってない素の反応がいちいち面白くて、女に向かってこんな、面白いなんて思ったのは初めてかもしれない。
で、あまりにぼけーっとしてるから、さっさと全部脱げよと言ったら戸惑ってたから、なるべく何でもないように言って、俺は向こう向いてるから、と背を向けてやった。
ちょっとしてがさごそ音がして静かになったから、もう脱いだのかと思って、ふと振り返って見てみたら、白い背中が見えた。長いプラチナブロンドの髪は前の方に垂れていたからよく見えた。
小さくて、滑らかそうな肌が何か綺麗で、思わずしばらく見てしまったが、我に返って、あいつに悪いなと思って、もう見ないようにした。
そしたら、しばらくしてフェルマが身震いして震えた声を漏らしたから、
やっぱ寒いんだなと、背中を覆って温めてやろうとした。
もちろん俺も寒かったし、ここで体力を落としてたら、魔力の回復が間に合わないからだ。
向かい合って抱き合うのはさすがにフェルマも嫌だろう。背中ならマシかなと思って言ってみたんだが、やっぱりあいつも寒かったらしく、それでいい、と言った。
だから、向こうを向いてるフェルマの方に体を向けて、なるべく脅かさないようにそっと後ろから抱くようにした。
暖かい……。
小さくて、力を込めたら抱き潰してしまいそうだ。いや、今はそんなこと考えるべきじゃない。頭を振って空にした。
なるべく何でもなさそうに振舞っていた俺でも、少しは緊張していたから、
「はわあ……」
フェルマがそんなのんきな声を出すから、思わず笑ってしまった。
「お前、面白いなあ」
ってまた言っちまった。女に向かってこれってどうなんだと思ったけど。
フェルマは特に気にした風じゃなかった。
触れているところから、だんだん温まってきて、俺も心地良くなって来た。
フェルマの背中、俺の胸に触れているところがドクドクと脈打っている。
鼓動が早い。
緊張してるのか……まあそりゃそうだよな。
いくら仲間だからって男と裸で密着するなんて、神殿住まいの娘には刺激が強いだろう。
……とか言いながら、俺自身も鼓動が早くなってしまった。
気にしないように、何でもないように、とは思っていても、こうして密着して肌の感触、体温をずっと感じていると、変なことを考えてしまいそうになる。
そんな場合じゃないってのに。
そう葛藤していたら、気付くとフェルマの鼓動がゆっくりになってきて、ふと顔を見たら目を閉じて寝息を立てていた。
ーーーーーーえ?
くっ。
また、声を出さないように笑った。
さっきまであんなに緊張していたくせに、あっという間に眠ってしまうとか。
なんなんだ、こいつ。
じっと後ろから横顔を見ていたら、なんか触れてみたくなって、そっと顔を寄せて柔らかい頬に唇で触れてしまった。
あれ?何、やってるんだ俺。
仲間にこんなこと、しちゃ駄目だろう。
そのあとは、もう何も考えないようにして、目を閉じた。俺も体力と魔力を回復しなきゃ、な……
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