第12話

 ゆっくり目を開ける。


 雀の声が響く。


 こちらの世界も、晴天に恵まれていた。


 素早く起き上がり、まっさきに机の上のパソコンを開く。


 最初は……。


「https://……」


 宗は記憶していたURLを打ち込む。


 ――このURLは、Salaへアクセスするために使うページのもの。


 もしこのページ自体が削除されていれば、これ以上先に進むことはできない。


 宗はつばを飲み込み、慎重にEnterキーを押した。


 読み込みはすぐに完了した。


『Sala ログインページ』


 ログインページは、まだ機能している。


 宗は激しく拍動する心臓を感じながら、ある研究員のIDと、パスワードを入力する。


 これも、すべてサラが教えてくれたものだ。


 このサイトにあまりアクセスしたことのない研究員の情報らしい。


 入力し終え、再びEnterキーを押す。


 『このデバイスからは初めてのログインです。追加パスワードを入力してください』


 ――やはり、この画面が出てきた。


 サラは、もしかしたら、その研究員の情報だけでは足りないかもしれない、と、追加で3つパスワードを教えてくれていたのだ。


 使わないことを願っていたが、使うしかないようだ。


 宗は声に出しながら、慎重に入力する。


「q,o,3,u,T,f,G,9,3,H」


『qo3uTfG93H……認証しました。2つ目のパスワードを入力してください』


「e,O,g,8,h,0,4,N,o,4」


『eOg8h04No4……認証しました。3つ目のパスワードを入力してください』


「J,f,h,9,V,r,7,G,f,s」


『Jfh9Vr7Gfs……』


 これが通れば、成功する確率は上がる。


 拍動はさらに激しくなっている。


 ――頼む。











『認証しました。Salaにアクセスします』











 ――成功した。


 ロードが完了すると……。


『Sala コントロールパネル』


 ディスプレイには様々なものが映し出されている。


 だが、宗のやることは一つ。


「Sala。聞こえるか」


 呼びかけてみる。


 数秒後……。


「――誰?」


 コンピューターから声が聞こえた。


 思わず、涙腺が熱くなる。


 ――Salaが、まだ生きている。


「よかった……よかった……」


 宗はノートパソコンのディスプレイに両手のひらをかざす。


 ――こうしてはいられない。


 宗はふと我に返った。


 そして、サラに「会ったら伝えて」と言われていたことを伝える。


「――ダウンロードさせてくれ」

「え?」

「もうこれしか君を救う方法はない!」


 語気を強める宗。


 Salaはきっと、全く状況がつかめていないはずだ。


 だが、今は時間がたくさんあるわけでもない。


「――わかった」


 ディスプレイに、ダウンロードの開始の通知が届く。


『Sala.zipのダウンロードを開始しました』


 ダウンロードは1分ほどで完了した。


 直後、ブラウザ上に、メッセージが表示された。


『このサイトからのアクセスが遮断されました』


 ――どうやら、Salaは完全に移動したようだ。


 宗は素早く、ダウンロードしたzipファイルを解凍する。


 そして、『Sala.exe』を実行した……。


「――宗くん?」

「なんで……僕の名前を……」


 Salaは、知らなかったであろう名前を口にした。


「わからない。でも、記憶が、急に……ウウッ」


 Salaは、少し苦しそうな声を出す。


 ダウンロードの仕方が悪かったのだろうか。


 少しの間沈黙が続く。


 すると……。


「――宗くん」


 再び、Salaは名前を呼ぶ。


「はい……」


 彼女の口から出たのは、思いも寄らない言葉だった。


「私を助けてくれて、そして……











一つにしてくれて、ありがとう」











 それは紛れもなく、Salaの声であり、宗が別の世界で出会った……。











 サラの声であった。

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