第7話

 大きな雑音で、目が覚める。


 ――降りしきる雨。


 時計は5時30分を指している。


 宗はふと我に返り、自分のノートパソコンを開く。


 学習に使うかもしれないため、数週間前に買ったばかりだ。


 あまりスマホで調べる気分にはならなかった。


 キーワードを入力すると、目的のものはすぐに出てきた。






 Sala。「超高性能人工知能」として、N社が2024年に開発した。計算能力だけでなく、新たなプログラムの開発や人間との会話など、多くの事ができ、これからの人工知能の発展に大きな影響を与えると考えられていた。しかし、2026年7月、突如としてN社は、Salaの停止を発表した。理由として、「システム上のトラブルのため」としている。






「私はね……捨てられたAIなの」


 宗は彼女のその言葉を聞いたとき、真っ先にこれを思い出したのだ。


 確かに、この時期だった。


 メディアでも大きく報道され、注目を集めていた人工知能だけに、わずか1年での停止は、日本中に大きな衝撃を与えた。


 このとき宗は高校1年生で、テレビのニュース速報で流れてきたのを、今でも覚えている。


 サラがあのSalaだったなど、誰が想像しただろうか。


 ――これで、あの世界が夢でないことが完全に証明された。


 こちらの世界のSalaは停止しているが、あちらの世界のサラは動いている。


 そして、何故か実体化していた。


 これら2つの世界は完全に偽物と考えていいのか……。


 しかし……。


 宗は一つ気になる点があった。


 時間もなかったので、続きは学校で調べることにした。






 開放されていたコンピュータ室の窓側の席で、宗は調べ物をしていた。


 それは、Salaが停止された日付。


 検索すると、案外すぐに見つかった。


 ――2026年7月20日。


 あちらの世界で爆発が起こった日と、全く同じ日付。


 もう少し手がかりを探るために次に調べたのが、その日の気象情報。


 ――東京、快晴。最低気温29.4、最高気温40.2。観測史上最大を更新。


 ついに東京でも40℃を超えた、記録的な一日だったようだ。


 そしてさらに、気になる記事があった。


 ――11:34、東京駅地下で不審物発見。頑丈で内容物は不明。国が保管。


 謎の物体。この中には何が入っていたのだろうか。


 ほとんど、あちらの世界と共通している。


 ――今考えてみると、おかしな点がもう一つあった。


 それは、一瞬にして東京から人が一人もいなくなったという点だ。


 確かに、世界がもう一つ存在すること自体が不可解だが、こちらの可能性のほうがもっと考えにくい。


 2、3人ならまだしも、1300万人が神隠しなんて、ありえない。


「何を調べてるの?」


 気づけば、情報科の教師、似内にたないが宗の後ろに立って、画面を覗いていた。


「いや、その……」

「ああ、この黒いやつね。僕当時この場にいたよ」

「えっ……」


 驚きだった。今までそんな話は全くされたことがなかったから……。


「表向きにはされてないけど、確か警察の人が……」


 似内は外を見る。


「爆発物、とか言ってて、怖かったなあ……」


 ――爆発物。


 これは決定的だった。


 こちらの世界とあちらの世界は、全く別の世界ではない。


 何らかの点で、共通している。


 互いに干渉しあわないはずの2つの世界に、こんなにも共通点があり、Salaが停止された日も、その日だった。


 2026年7月20日、2つの世界で何があったのか。


 もう一度、確かめる必要がありそうだ。


 ――彼女に、再び会わなければ。


 自分の意志でどうにかなるものではないものかもしれない。


 しかし、宗は決意を固め、「シャットダウン」をクリックした。

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