第8話

 その日、似内和樹にたないかずきは、出張帰りで疲弊していた。


 情報科教員を集めたセミナーのようなものに出席してきたのだが、あまり多くの収穫はなかった。


 新幹線での移動だったため、出張先で一泊し、翌朝、帰路についた。


 東京駅への到着は、11時半。


 新幹線の中で熟睡してきた似内は、眠い目をこすりながら、ホームに降りる。


 エスカレーターでコンコースまで降りると、そこには、人だかりができている。


 人混みの間から覗いてみると、多くの警察官と、数人のヘルメットをかぶった人物が、何かを取り囲んでいた。


「爆発物の可能性もあります。離れてください!」


 一人の警察官がそう叫んだ。


 その一言で、多くの野次馬ははけていったが、まだ残っている者も数人いる。


 似内も、興味本位でそれに近づいていく。


 周りには立入禁止のテープが貼られ、一般人は近づくことができない。


 すると、新たな人物がテープをくぐってやってきた。


「ここは立ち入り禁止……」


 若い警察官が呼びかけるが、聞こうとしない。


「前田先生、来てくださいましたか」


 前田、とか呼ばれたその男は、ライトのようなものを持って、黒い物体を調べ始めた。


 数秒後……。


「具体的にはわかりませんが、間違いなく危険物です。開けたら何が起こるかわかりません。――逆に言うと、開けなければ安全です」


 中身を調べたようだ。技術はかなり発達したみたいだ。


 彼らは短く会話を交わすと、その物体を持って外へ向かう。


 すぐに規制線は取り外され、東京駅は日常を取り戻した。






 カッと目を開く。


 ――あの天井。


 間違いない、サラのいる世界に戻ってきた。


 サラが昨日行っていた、「またすぐ会えるよ」は本当だった。


 宗は起き上がり、あたりを見回す。


 やはりあの廃墟だ。


 宗は扉を開け、あのスーパーまで全力で走る。


 ――彼女はきっと、まだ隠し事をしている。


 それはあの日、東京で起こったこと、この世界に隠された真実。


 サラはおそらくそれを知っている。


 これは、宗は知らなくていいことなのかもしれない。


 だが、彼女は宗に、世界の美しさに気づくきっかけをくれた。


 それに……。


 ――彼女は自分自身を、「見捨てられたAI」と形容した。


 宗にできることは少ないかもしれない。


 だが、彼女に少しでも自分に肯定的になってもらいたい。


 ――そのために、真実を知りたい。


 宗は階段を降りて、地下室の扉を開ける。


 そこには……。


 誰もいない。


 なぜ……。


 崩れ落ちそうになったときだった。


「ノックぐらいしたらどう?」


 聞き覚えのある声が、どこからともなく聞こえてきた。


「サラさん……?」


 宗はその姿を探そうとするが、なかなか見当たらない


「こっちだよ」


 もう一度耳を澄まして聞いてみると、その声は倉庫から聞こえてくる。


 倉庫の扉を開けると、その上で、サラが荷物の整理をしていた。


 宗が中にはいると、くるりとこちら側を向く。


「まさか、次の日にもう来るとはね」

「サラさん」


 宗は彼女の目を見て放つ。


「――真実を……教えて下さい……」


 ここまで走ってきた疲れはあった。


 だが宗は、体の力をすべて、その一言に込めた。


 ただの自己満足かもしれない。余計なお世話かもしれない。変な人だと思われるかもしれない。


 それでも……。


 彼女に前を向いてほしい。


 暫時、無音の空間が続く。


 サラは後ろを向いて、口を開く。


「君は……よくわからない」


 そう言われるのも当然だ。


 サラの中では、自分が伝えたことしか宗は知らない事になっている。


 しかし、宗がそれ以外のことを知ったことに、サラは気づいているようだ。


「――たし、つく……」

「え?」


 サラがなにか話したが、宗には届かない。


「今、なんて……」

「この世界は……」






「私が作った」

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