第5話

 2026年、7月20日。


 その日の東京は、朝の段階で30℃を超え、記録的な暑さだった。


 空には雲ひとつなく、太陽が、街をジリジリと照らし続けていた。


 学生は夏休み中なのだが、会社員などはいつもどおり、電車や徒歩、車で出勤していた。


 電車、バス、新幹線も通常通り運転し、多くの乗客を運んでいた。


 なんの変哲もない、夏の日だった。


 ――あの時までは。


 気温がどんどん上昇し、太陽が空のほぼ真ん中に位置した、正午。


 それは突然だった。


 東京の複数の場所で、大規模な爆発が起こったのだ。


 ――その一つが、東京スカイツリー。


 爆発自体の影響は、半径500mほどと、そこまで広くはなかった。


 しかし、爆風は凄まじいものだった。


 爆発場所周辺だけではなく、それよりもっともっと広い場所まで影響が及んだ。


 ガラスは割れ、建物自体が倒壊したところも、とても多かった。


 ――東京は一瞬にして、破壊されたのだ。


 その爆発は、未だに原因不明。


 というか、その原因を調べる人が、いなくなってしまったのだ。


 それが、もう一つの不可解な点。


 東京からは、人が一人もいなくなってしまった。


 爆発で亡くなったなどの話ではない。


 遺体も全く見つからず、不自然に姿を消してしまったのだ。


 政府や国会の職員もほぼ姿を消してしまい、日本は一時無政府状態となった。


 その翌日、緊急で首都機能が大阪に移された。


 しかし、まだ危険物が残っている可能性があるため、東京は現在、立入禁止区域となっている。


 誰一人として入れない東京。


 それはもう、かつての首都とは思えないほど廃れている……。






「多くの企業の本社や、国の建物がたくさんあって、そこに重要なデータや書類が保管されていたから、それらは全て無くなった。東証一部上場の企業も、多くが倒産したの。――だから、都市って意外と脆弱なの」


 最後に、サラはこの言葉で、話を締めくくった。


 爆発場所の一つとなった、電波塔を見上げながら……。


「大阪で再び日本をスタートさせるのにも、半年くらいかかったからね。一つの場所に情報が集まりすぎると、ほんと、何が起こるかわからない……」


 宗の世界では、まだ東京が首都だ。宗もそこに住んでいる。


 しかし、実際にこのようなことが起こったとしたら。


 ――考えるだけで、鳥肌が立つ。


「もう少しその後の話をすると、一度ドローンで東京の撮影に試みた人がいるらしいの。でも、東京に入った瞬間に、通信が途絶えてしまった。その後日、飛行機で上から撮影もしたけど、爆発場所がわかったくらいで、それ以上降りるのは危険だと判断されたの」


 未だ、爆発の真相は不明のようだ。


 別の世界ではこんな事が起こっていたなんて、宗は知る由もなかった。


 自分にはあまり関係のなかった話とはいえ、内容はショッキングなものだった。


「正直に言うと、君のことははじめから違う世界の人だって気づいてた。ここは、人が入れる場所じゃないから」


 彼女は、もう一つの可能性の世界の存在を、簡単に肯定した。


 ――確かに、立入禁止区域に人がいたら、誰でも驚く……。


 宗は、その違和感に初めて気がついた。


 話が衝撃的すぎて、今まで全く気が付かなかったことに……。


「サラさん」

「ん?」


 意を決して問いかける。


「――サラさんはなぜ、ここにいるんですか?」


 危険なため立ち入りが許されていない東京に、なぜ彼女は一人、立っているのだろうか。


 東京を調査したときの内容もよく知っていた。


 それらは、彼女がただ者ではないということを示している。


「ああ、それはね……」


 彼女はこちらを向き、微笑みながら答える。


「私、人間じゃないから」

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