第4話

 荒廃した街を、どんどん進んでいく。


 どの建物もほとんど瓦礫に囲まれていて、歩いているうちに方向感覚が狂いそうになる。


 時々落ちているキーホルダーや財布などを見ると、以前はこの都市はかなり賑わっていたことがわかる。


 その景色をじっくりと見ながら歩いていると、その隙きに、サラは宗のはるか先まで進んでいた。


 宗も慌てて走って追いつく。


「待ってください、もうちょっとゆっくり歩いてほしいです」

「あ、ごめん」


 彼女のペースは、宗が駆け足でやっと追いつけるほどだった。


 今は少しペースを落としたが、それでも宗は早歩きをしている。


 その後、話題もなかったため、特に何も会話せずに15分ほど歩き続けた。


 聞こえてくるのは、足跡と、たまに聞こえるカラスの鳴き声。


 それは、宗が生活していものと何ら変わりない世界であったことを示していた。


 ――何が、この都市を変えてしまったのか。


 それは、これから向かう場所で分かるのかもしれない。


 宗は、おとなしくサラについていくことにした。


「そろそろだね」


 急にサラがペースを落とし始めた。


 どうやら、もうすぐ目的地に着くらしい。


 また少し周りを見渡してみると、ここは周りより被害が大きいように感じられた。


 高層ビルは下半分だけが残り、道路にも多くの物が散らかっている。


 今から向かおうとしているのは、都市がこのような姿になった原因のような場所と考えてもいいだろう。


 ふと、ある建物が目に入った。


 それは、もとからあったものではなく、どこかから運ばれてきたようなものだった。


 その建物には文字が書いてある。


 その文字を見て、宗の体に衝撃が走った。


 宗は。この場所がどこなのかを知ることになったのである。


 しかし、それはとても信じられるものではなかった。


「――サラさん」

「……」


 彼女は何も答えない。


 すると、サラは突然右へ曲がった。


 宗も慌ててそれを追いかけるが、その先に広がっていたのは、先程の文字よりもさらに衝撃的なものだった。


「サラさん、これは……」


『押上』


 それが、先程の建物に書いてあった文字だ。


 そして、目の前にあったのは……。


「東京…スカイ…ツリー……」


 世界一の高さとも言われた自立式電波塔は、真ん中の展望台のあたりでポキっと折れ、無残にもそこから上は、地面に横たわっていた。


 円形のくぼみは、直径がざっと300mくらいだろうか。


 展望台の周辺は黒く焼け焦げており、最先端の技術が結集された建造物だった形跡は……。


 ――ほとんど残っていなかった。


「近づいても大丈夫」


 サラの言葉を聞き、宗はくぼみの下へと向かう。


 深さもかなりあり、大変だったが、なんとか降りることができた。


 上の部分は完全に折れていたが、下の部分が残っているということは、やはり耐震構造が完璧だった、ということだろう。


 近くで見ると、その大きさを身をもって体感できる。


「なぜこんな姿に……」

「これから説明する」


 サラは、この地で何が起きたのか、理解しているようだった。


「でも、なんで教えてくれるんですか」

「――君が、信頼できると思ったから。それだけ」


 なにか信頼されるようなことを宗はしただろうか。


「少し歩きながら話そう」


 サラがそう言ったので、宗もそれを追う。


「今から宗くんに話すのは、信じられない内容かもしれないけど、全て事実だから、聞いてほしい」

「分かりました」


 この場所で、何が起こったのか。


 その時、人々はどんな行動をしたのか。


 そして……。


 「サラ」という存在は、一体何者なのか。


「これは、かつて世界中の人々がその名前を知っていたが、突如姿を消した、という大都市のお話」

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