【KAC20225】米寿記念の贈り物

「うーん、どうしよう……」


 吉川が何やら唸っていた。


「悩みごと?」

「あ、佐藤くん。えっと、今度ひいじいちゃんが米寿なんだ」


 確か88歳のお祝いだったかな。


「長生きだね。おめでとう」

「ありがとう! それで何かあげたいんだけどいいアイディアないかな?」

「うーん……」


 僕にはそういう機会がなかったからなぁ。


「候補はあるの?」

「うーん……終活してるからモノは増えたら邪魔かなぁって。食事券でもいいんだけど、ひ孫から金券もらうのって微妙じゃない?」

「確かに」

「体は大事にしてほしいから、お酒もちょっとなぁ……。お花でもいいんだけど、どうせならもう一捻ひとひねり欲しいかなって」

「まぁそこは最後の砦にとっておきたいよね。間違いはないわけだし」


 ふたりして、うーん、と考える。

 何貰っても喜びそうではあるけど、どうせなら贈り物そのものも喜んでもらいたいよな。


 あ、そうだ。


「吉川、こういうのはどう?」

「――それいいね! 早速、家に帰って準備してみる!」


 どうやら気に入ってもらえたらしい。



 ――数日後。



「この前の件、喜んでもらえたよ! ありがとう!」

「よかったね」

「うん! 良く思いついたね。家族写真を集めたアルバムなんて」

「たまたまだよ」


 単に晩年、僕の曽祖父が大切にしていたものだっただけだ。

 それを今、この場で言おうとは思わないけど。


「――ねね、佐藤くん。私たちも写真撮ろうよ」

「ん? なんで――うわっ!」


 吉川にぐいと引き寄せられると同時にパシャッと音がした。

 スマホには間抜け面をした僕と笑顔の吉川が写っていた。


「何の写真なの? これ」

「うーん、私のひいじいちゃんの米寿記念がうまくいったお祝い?」

「なんだそれ」


 僕が笑うと、吉川も笑った。


「高校生活なんて一度しかないんだし、これも思い出作りだよ」


 確かにこういう写真おもいではきっと後から振り返ったときに宝物になる。

 そのときにもし隣に――、と浮かんだ都合のいい妄想を隠しつつ「そうだね」とだけ返しておいた。

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