【KAC20223】第六感の証人

「ねぇ、佐藤くんは第六感って信じる?」


 曇天のある日、ふたりきりの図書室で吉川が言った。


「第六感って何だっけ?」

「五感以外の感覚のことだね。直感とか霊感とか」

「ああ、そういうこと」


 僕は少しだけ考え、言った。


「僕は信じてるよ。なにせ、その証人が今そこにいるんだから」

「――――――え?」


 吉川の顔がさっと青ざめ、きょろきょろと辺りを見渡した。


「ど、どどどどういうこと?」

「どういうことって言われても――」


 稲光が瞬き、体を内側から叩くような音が響いた。


「――ッ!」


 吉川がビクリと身を強張らせた。


「そのままの意味だけど?」


 吉川は胸の前で身を護るように抱いた。

 そんな吉川に、僕は訊ねた。


「こういうの苦手?」

「……ね、ねぇ、さっきの話、嘘だよね?」


 吉川が縋るような目でこちらを見た。


「いや――」


 そしてまた一つ、雷鳴が轟いた。


「――嘘じゃないよ」


 吉川は立ち上がると、僕の方まで来てぎゅっとしがみついてきた。

 僕はどぎまぎしながらも平静を装って話し始めた。


「――今年の春」

「い、いや……」


 僕の腕を抱く吉川の手に力が篭められる。


「ここに来た僕に、吉川が話かけてくれただろう? あのとき不思議と仲良くなれる気がしたんだ。正解だったよ」

「――――んんん?」


 吉川がぱっと離れ、不思議そうに僕の目を覗き込んだ。

 あれ? 何かおかしかったかな。


「直感の話だろ?」

「直感? 霊感じゃなく? じゃあさっきの『こういうの苦手?』って言うのは?」

「……? 雷のことだけど?」


 空白の時間が流れた。

 数秒経って、吉川が再起動した。


「びびって損した! 今日は罰として私を駅まで送ること!」

「それは構わないけど……何か怒ってるの?」

「怒って……るけど、でも仲良くなったって思ってくれてるのは嬉しいし……すごく複雑な心境だよ!」


 吉川はその後も忙しなく表情を変化させていたが、駅まで送り届けて手を振って別れる頃には、すっかりと機嫌を取り戻してくれたみたいでほっとした。

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