恋バナ

「吉川って好きな人いるの?」


 今日もふたりで穏やかに過ごしました……と思っていたら、佐藤くんがとんでもない爆弾を投下してきた。


「ど、ど、どどどどういうこと?」

「えっと、一回落ち着こ?」

「う、うん。ちょっと待ってね。…………よし、もういいよ。それでどういう質問なの?」

「恋バナだよ。普通の話題でしょ?」


 やっと気づいた? と少し期待したがさらりと返ってきた。

 相変わらず表情から感情が読み取りにくい。


「えーっと……逆に佐藤くんはいるの?」

「いるよ」

「え、誰誰?!」

「吉川が先に教えてくれたら話すよ」

「……せめてどんな感じの人かまでにしてください。恥ずかしいので」

「わかった。でもそれなら僕もどんな感じの人かだけね」


 てっきり「いない」と返ってきてこちらも煙に巻くつもりだったのだが、予想に反してものすごく気になる答えだ。

 好きな人に好きな人のことを話すなんてどんな罰ゲームだ。

 でも佐藤くんの好きな人のことは知りたい。話すしかないのかな……。 


「えっと……本をよく読んでて……」

「うん」

「眼鏡が似合ってて……」

「それで?」

「……………………って言えるかぁ‼︎」

「うわっ!」

「何なのこれ! 新手の羞恥プレイ?! 佐藤くんは私をどうしたいのかな?!」

「ちょ、ちょっと落ち着いて」

「むしろ何でそんなに落ち着いてるの?! 普通もうちょっと何かあってもいいと思うんだけど!」

「わかった、謝る! 謝るから!」

「別に悪いことしてないじゃん! 私が勝手に怒ってるだけなのに何を謝ってるの!」

「どうしろと……」

「知らないよ! ……もう帰る!」


 私は居た堪れなくなり、脱兎の如く逃走した。

 少し落ち着いた後、佐藤くんに「さっきはごめんね、また明日」とメッセージを送ると「こっちこそごめん。それと僕の方も同じ感じ。また明日」と返ってきた。

 何が同じなんだろう、と思ったものの追及するような気力もなく、私は家に帰るなり夕食もとらずに眠ってしまったのだった。

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