十五夜って旧暦の八月十五日の夜らしいですよ
「佐藤くん、今日の夜って時間ある?」
九月も後半に差し掛かろうとする頃、もう少しで帰るところで吉川に話しかけられた。
「特に予定はないけどどうしたの?」
「一緒にお月見したいな」
「お月見?」
「うん、今日十五夜だよ」
「……そうなの? 九月十五日だと思ってた」
「私もそう思ってたんだけど、毎年変わるみたい。旧暦の八月十五日を基準にしてるんだって」
「なるほどね」
旧暦基準だとなぜ変わるのかはわからなかったが、見栄を張って納得したふりをした。
「この近くの公園で綺麗に見えるところあるらしいんだ。どうかな?」
「でも結構遅くならない?」
「見頃な時間は夜九時くらいらしいから大丈夫かなって」
「じゃあ帰るのは夜十時くらいかな。うーん……」
「……やっぱり難しい?」
「吉川が危ないでしょ」
「田舎だし、大丈夫だよ」
田舎だからこそ周りに人が少なくて危険という見方もある。
高校生の女の子をその時間から歩いて帰らせるわけにはいかない。
「うーん、やっぱり難しいかな。僕の良心が咎める」
「そっかぁ……。残念だけど仕方ないね」
仕方ない、と自分に言い聞かせるように繰り返す吉川。表情を取り繕っているが無理をしているのは一目瞭然だ。
「よし、じゃあ今日の夜に読む本でも選ぼうかな。書架の方に行って探してくるね」
そう言って歩き出す背中に僕が声をかけた。
「待って。そんな時間ないよ。荷物まとめて」
「え? なんで?」
「今から吉川の家の近くでお月見出来そうな場所探さないといけないでしょ? あとお団子も買わなきゃ」
「――え?」
「この近くにそんな遅くまで居させられない。だから吉川の家の近くで見ようよ。良さそうなところあるかな?」
「……ありがとう! 佐藤くん!」
一転して満面の笑みを浮かべた吉川と二人並んで図書室を出る。
そんな彼女を見ているとこちらまで幸せな気分になる。
今日は特に気を付けないと、ついついあの台詞を言ってしまいそうだ。
――月が綺麗ですね、と。
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