ただ穏やかな秋の一日
「佐藤くん、眠そうだね?」
隣に座る佐藤くんがうつらうつらと舟をこいでいた。
「ん……あぁ、最近夜更かし気味で……」
「少し眠ったら?」
「……いや、大丈夫。眠気飛んだから」
「それならいいんだけど……」
佐藤くんはくしくしと目元を袖で擦り読書に戻ったが、ものの五分もしないうちに再び舟をこぎ出す。
こくりこくり揺れる頭をほっこりと眺めていると、程なく視線に気づきばつの悪そうに顔を反らした。
「……やっぱり少し寝る」
「うんうん、それがいいよ。希望の時間に起こしてあげる。いつがいい?」
「じゃあ三十分後で」
すぅー……。すぅー……。すぅー……。
一定のリズムをBGMに本を読む。
目の前のミステリはいよいよクライマックス。
探偵がみんなを広間に集め、これから謎解きが始まる。
緊迫した空気が場を包んで――
すぅー……。すぅー……。すぅー……。
……なんだか気が抜けちゃったな。
私はぱたんと本を閉じて、頬杖をついて佐藤くんを眺めた。
秋寒の外に対し、図書室の中はほわほわと暖かい。
気持ちよさそうに眠るなぁ。
ぼーっと眺めていると、私の口にもほわりとあくびが一つ。
あれ、なんだか私まで眠くなってき……
重い瞼を開けた目の前には頬杖をついてこちらを見る佐藤くん。
「おはよう」
「おは……よ……?」
窓の外に目をやればもう星空の一歩手前。
「寝て……た……?」
「ぐっすりと」
急に追いついてきた理解に顔がかっと紅潮する。
「ご、ごめん! 起こすって言ったのに……」
「いいよ、別に用事あったわけじゃないし。それに良いものも見れたから」
……良いもの……もしかして寝顔……?
「わ、忘れて……!」
「はいはい」
「うー……これからは夜更かし禁止! 早く寝ること!」
「なんで僕が?」
「佐藤くんがあんまり気持ちよさそうに眠るのが悪い!」
「理不尽な……」
数日後、再び佐藤くんにつられて寝顔を披露してしまった私は、今後はコーヒーを飲んでから図書室へ行くことを心に誓ったのだった。
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