第2話


──そして、その明日。



「チヅ子さん、人差し指をご自身の頬に当ててどうするのですか!? 貴女は何をするおつもりですか!? さてはまた分離術ですね! どこをどう分離するのですか!? いやいや、ここは学者らしく推論を立てましょう。うむむう、そうだ、耳が取れると見た!」


「違います。人差し指はこうします」


「う! うう、嘘だろう!!! 人差し指が頬に突き刺さった! それが証拠に、反対側の頬が人差し指の指先の形に添って膨らんでいる! 突き刺さった人差し指が口内で反対側の頬を内から押しているからそう見えるんだ! ──あああ、止めて、突き刺さった人差し指をカクカク動かさないでえぇ! 反対側の頬の突起もそれに合わせてカクカク動いているよう! 痛い、痛い痛い! 見てるこっちが痛い!」


「はい。お終い」


「え? えええっ!? な、ななな、なんで! 人差し指は明らかに頬に突き刺さっていたはずなのに傷ひとつないなんて、それはありえない! はわわああ、ほ、ほんものだ! やはりチヅ子さんの神通力は本物なんだあっ!」


「先生、それは大袈裟ではありませんか?」


「あっ! ああ、これは失敬。英国留学が長かったせいか、反応が過敏になってしまうのです。というのも彼らはそういうやかましい文化を持っているらしくて、いやあ困ったものです。あいむそうりい。──あ、これは重ねて失礼。『あいむそおりい』とは私たちの言語でいうところの『ごめんなさい』と同じ意味です」


「はあ、そうですか。そんなことよりも、見せるものは見せましたのでお引き取り下さい」


「では、チヅ子さん」


「お引き取り下さい」


「もう一度、見せてはくれませんか?」


「あいむそおりい。もう無理です。お引き取り下さい」


「ああ、なるほど、その超回復術は多用できないのですね。治癒力を強引に引き出すのですからな、相当な胆力を使うのでしょう。無理もない」


「そうではないのですが、そんなところにしてください」


「かしこまりました。では、また明日にお会いしましょう」


「……え、また来るのですか?」


「もちろんです。来るなと言われても私は来ますから」


「困ります!」


「それでは、また明日」

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