第85話菊池晃子の実家は壊滅 元は演奏を続ける

元のピアノを聴いている中村のスマホが鳴った。

博多の知り合いの刑事からだった。

中村は、ホールから一旦出て、内容を聴く。

その内容を要約すれば、以下のようになる。

菊池晃子、つまり離婚する前は、元の養母だった田中晃子の博多の実家は、壊滅状態であること。

菊池晃子の極道の両親は、酒酔い運転で交通事故、病院に担ぎ込まれ、結局二人とも死亡。

子分たちが、残された金の取り合いで喧嘩をしている最中に、近所の住民から通報を受けた地域警察が踏み込み、全員逮捕。

かなりの武器、弾薬、麻薬、現金を確認したとのことだった。


中村

「菊池晃子は浮気騒動からパリで殺され」

「その両親は、パリに急ぐために、酒酔い運転で交通事故死か」

「それに加えて、極道一家は壊滅か」

博多の刑事

「あまりにも流血沙汰が多い一家で、他の組からも、嫌われていて」

「先はありません」

中村

「すでに、離婚もしているけれど、万が一を思って」

「ありがとう、また何かあったら」


中村が、博多の知り合いの刑事との連絡を終わり、ホールに戻った。


マルコ神父とシスター・アンジェラに、その内容のメモを渡す。


マルコ神父は十字を切った。

「恐ろしい事ではあるけれど、これが神のご意思かもしれません」


シスター・アンジェラも十字を切る。

「私たちは、目の前の元君と、本当のご両親の関係の修復に力を尽くします」

「それが、神から与えられた使命を思っています」


元はショパンのバラードの第1番を弾き終えた。


その元に、春麗が声をかけた。

「お疲れ様、かなり弾いたけれど、痛みはある?」


元は首を横に振る。

「バラードを弾いたのは、その確認だったけれど、痛みはないよ」

そして、何か弾きそうな顔。

「シスター・アンジェラ、クラシック以外に弾いても?」


シスター・アンジェラは、笑顔。

「元君、ここは教会、神の家です」

「神は、いろんな音楽を聴きたいの」

「どんどん弾いていいよ」


元は実に珍しく、笑顔。

そのまま、ビリージョエルのオネスティを弾き始める。

大人たちが「ほおっ」と笑顔を浮かべる中、春麗と美由紀、奈穂美が競うように元のピアノを囲み、歌い出す。


シスター・アンジェラは、面白そうに、若者たちを見る。

「元君は、施設で、女の子のアイドル」

「やさしくて、男気があって」

「ピアノもギターもハーモニカも歌も上手」

「何度も取り合いされて、元君は、困っていました」


本多佳子は、笑顔に変わる。

「わかります、すごく心がきれいです」


本多美智子は、ウズウズして来た。

「私も何かしたい、さっきは泣いちゃったけれど」


その本多美智子を、実母佳子が制する。

「だめ、可愛い子たちに囲まれているの」

「よく見てあげて」


オネスティが終わり、本多美智子は、結局我慢ができないので、元の隣に立った。

2人で始めた曲は、ベートーヴェンの「春」。

教会のホールに、この上ない幸福の世界が広がっている。

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