第3話 いびつな家族

意地悪な姑からの形に残る唯一のプレゼントだ。

食事に誘われることも、多かった。


義母は味に文句をつけて、知っている個人店の出入りしにくくなってしまった。


しまいにはフランチャイズのお店にまで味や接客のクレームをつけるようになった。


義母の食事は遠慮することになってしまった。


義母も最近は落ち着いているらしいから

もう大丈夫だろうか。そしてレミも落ち着いているようだ。


「レミがまだ子供のころに怖い夢を見たとか

言ってきたことがあったんだけど」


「覚えてる。覚えてる。なんか銃と剣が出てきて、

私追われて……その後どうなったんだっけ?」


「とにかく凄く怖がって人形を抱え込んだのよね。

そしたらあなた風邪引いてて大変だったのよ」


彼女は納得したように首を縦に振った。


「記憶がないのはそれでかぁ」


「そうじゃないかしら。そろそろ学校に行きなさい」

「はぁい」


☆☆

私はあなたの身代わり。

酷いわ。

私はあなたが受けるはずだった事故を受けて、

こんなにぼろぼろになったのに。



あなたの代わりに受けた傷、返してあげるわ!

そして

私はあなたを母親から守ってあげたのよ。


私がこんなに成らなければ母親に蹴られ、

殴られて殺される運命だったんだから。


あなたにつけられた汚れ

すべてあなたへプレゼントしてあげる。忘れていた。あなたへの憎しみを。


私たち夫婦は見合い婚で

お互いを愛するよりも世継ぎを

作るほうが先に求められたわ。


妊娠しても家事は増えるばかりで夫の家族は

「嫁がすべて背負って当然」だという態度を貫いたわ。


出産してからだって変わることはなかった。

夜泣きは絶えず、ミルクもオムツも。

ずっーーとわたし。

舅も、姑も見ないふり。


レミ、あなたがいなければ。

私はまだ自由があったのに。


家事をしなければならなくて、

どうしても嫌だったの。

毎日積み重なっていく家族の衣服と

食べ終わった食器の数々。



一か月もしないうちに私の手はささくれだらけ。


ここまで育てたけれど、もう終わりにしよう。


我慢は限界をとうに超えていた。

いまだに助けはない。

「レミがいなくなれば私は自由……」




あなたの代わりに受けた傷、返してあげるわ!

「ただいま」

いつも忙しく働いているはずの母がテーブルに座っていた。

「今日はどうしたの? もうすぐパートの時間でしょ?」

「アナタガイナケレバ」

「え?」

母親の手にはロープがあり、

とめることなんて体格的に不可能だった。




「私は嫁にきつく当たることしかできんかった。


呪われるべきだったのは私のほうなんじゃ。孫には何の罪もなかった」


悲しい独白。


彼女は呪いだという建前を私に話すことで


懺悔をしたいのだと


なんとなく

わかってしまった。


そういう時って

あるから。



心の中でそう


うなずけても

言葉にはできない。



「こんな話を聞いてももらってくれるのかい?」

ためらわないと聞いたらうそになる。けれども。

「私はこの人形を大切にしていくわ」


人形は大切にしていれば魂が宿るともいわれる。

人のように。家族のように。


「大切にしていれば呪いなんて跳ね返す。

私はそう信じているから」


呪いなのかどうかは近いうちにわかるだろう。


私をもらってくれるの?

大切にもしてくれるの?


うれしいなぁ

さぁ、一緒に遊ぼうよ。

新しい遊び相手のきれいな子だね。

なにをして遊ぼう?

ずっとずーーっと大切にしてね。


もう壊れるのと汚れるの嫌だからね!

きちんと手入れもしてね。

さぁ、私はきれいなフランス人形。

今日は何をして遊びますか?


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