すべてがゼロになる



「おぬしも死ぬがいい」


 大悪魔は嬉々として俺を指さす。

 直後、空から斧が降ってきた。

 暗黒のドームごと両断しそうなサイズの斧である。

 ちょっと避ける挙動をとってみる。

 すると斧の先端が追尾するように動いた。

 これも命中率100%のアーティファクトをのようだ。

 凄まじい速さでせまる分厚い刃。

 避けられないのなら受けるしかないか。


「はは、諦めたか勇者」

「はい。避けられないみたいなので」


 斧が俺の肩に物凄い速さで叩きつけられた,

 ダンジョンを揺らすような激震と、舞い上がる土埃。

 すべてが晴れる。

 斧の先端は、俺の皮膚を1mmだけ破り、そこで止まっていた。


 大悪魔の表情から一瞬で余裕がなくなる。


「なんじゃと……」

「もう終わりですか」

「舐めるでない、人間」


 大悪魔は何かをしようとし、直後、俺は素早く接近して、『秘孔六十四連星エデン・オブ・シックスティフォ』を打ちこんだ。


「ふにゃぉぁああああああっっっ?!!!!」


 大悪魔はたわわに富んだ乳房を押さえ、股を隠すように手を当てると、高揚した眼差しで、睨みつけてきた。

 ただ、気持ち良くなった直後なので、覇気はなく可愛い感じになってしまっている。


「な、な、なんだ、この、このすけべな勇者め……っ、魔神相手にこんなどすけべ破廉恥極まりない技を使うなぞ……っ! んんっ♡ やめろ、感じるなわらわ、感じたら負けぞ!」

「はっはは、スケベだなんて。ただのマッサージですが」


 腰が引けてる大悪魔へ間合いを詰めて、今度は、『秘孔百二十八連星エデン・オブ・ワンハンドレッドトゥウェンティエイト』を打ちこむ。


 大悪魔は身体をくねらせながら、喘ぎ声を闇に響かせて、暗黒のドームのうえで濡れに濡れる痴態をさらした。


 まだ昇天しないか。

 なかなか骨のある痴女だ。


「屈辱だ……っ、ひぃ♡ あぅ、こ、こ、こんな、恥辱を、ぁぅッ、味合わされるなどッ、ぅぅん♡ くそくそ、感じるなわらわの身体……! んんっ!」


 地面のうえでビクンビクン震えて、未だ止まらない快感に腰をくねらせている。

 

「すこしレベルアップし過ぎましたか」

「っ、そ、そうか、勇者のもつ補正のせいで、ここまでの力を……っ、ひぃぎ♡ んんっ」


 大悪魔は羞恥に顔を赤く染めながら、なぜか勝ち誇ったような顔になり「はは、お前を倒す方法がわかったぞっ! んんっ!」と、腰を震わせる。


 芽吹さんとエージェントGにラスボスを倒す瞬間を見せてあげるために『蘇生按摩リザレクション・リラクゼーション』をかける。


「あ、おはようございます、加納さん」

「ミスター・加納、ありがとうございます」


 もはや慣れた感じで、起きあがる2人。

 絶句する大悪魔。


「マッサージ、なんとデタラメな能力だ……神の奇跡の真似事まで……。だが、油断したな、勇者、隙だらけぞ!」


 さっきからビクンビクンしてる大悪魔は強気にそう言うと、両手をパンと胸の前で叩きあわせた。


 赤黒い波動が膨張して、ドーム全体を包みこんだ。

 波動にあたった瞬間、俺たちのなかで何かが砕けちり、同時に魂のようなキラキラした光が一気に溢れでてしまった。


「超一級アーティファクト『勇者殺し』、おぬしらの負けぞ」


 光は空へと帰っていく。

 俺たちの身体から致命的なナニカが失われたと悟った。


「今のは……もしかして、経験値……?」

「その通りぞ、勇者。んっ……♡」


 大悪魔は気を取り直して、厳粛な顔つきになる。


「まさか、勇者たちに与えたというのか、大悪魔!!」

「察しが良いな、結社のエージェント。召喚された勇者なんて、レベルさえなければ雑魚ぞ。200年前に考案し、復活したら使おうと思っていたのをすっかり忘れておった」

「加納さん……っ、これはやばいですよ、わたしのスキル全部なくなってます……!」


「ステータス」


 俺はつぶやく。


 ────────────

 加納豊

 レベル0

 HP 3,999/4,000

 MP 500/500


 補正値

 体力   0

 神秘力  0

 パワー  0

 スタミナ 0

 耐久力  0

 神秘理解 0

 神秘耐久 0


 装備品

 『追跡者の眼』

 『下僕の手記』×10

 『7人の騎士』

 『無限外套』

 『岩竜の魂』

 『握撃グリッパー』


 ───────────


 なんという事だ。


「死ぬがいいぞ、勇者」


 気がついた時。

 目にも留まらぬ速さで黒い拳がせまっていた。

 襲って来る衝撃。

 真正面から大悪魔に俺は殴り飛ばされた。


「加納さんッ!!!」

「ミスター・加納ッ!!」


 頬に残るズキズキとした痛みが、ただのマッサージ師に戻った俺にひさしぶりの痛みを教えてくれた。

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