復活


「では、僭越ながら」


 俺は胎動する卵のような物を見上げて、有機的な柱に手を添えた。

 

 柱をマッサージして快楽を提供する。

 胎動する卵は、ビートを速く刻んでいき、やがて自壊しはじめた。


 エージェントGと芽吹さんが見守る。

 

 柱の中央部が、ゴロっと外れて、地上へ落下してきた。

 袋が破れて、ヒトガタの影がむくりと起きあがる。


「お気をつけください。大悪魔は封印されていた状態でも、外の世界の人間を洗脳し、勢力を拡大していたほどの暗黒の使い手です。直に目を合わせれば、それだけで意識を乗っ取られてしまうかもしれません」


 エージェントGは鬼気迫る声で言った。


 ちょっと忠告遅いのでは。

 直前で言う内容じゃないのでは。


「ふわぁ〜よく眠ったわい」


 呑気な声とともに、粘液の尾を引いて、大悪魔の姿があらわになった。


 豊かな胸を携えた大女だった。

 俺と身長が変わらない。

 黒い肌。光を反射しない邪悪な尻尾。

 頭には黒い巻き角。

 実に凶悪なフォルムである。

 グラマラスすぎてはち切れそうなビキニみたいな布(革?)を纏っており、薄紫色の肌は惜しげもなくさらされている。痴女である。


「あなたが大悪魔ですか」

「おや? おぬしらは……ハハハ、そう、そういうことであるか。まさか、わらわの子どもたちが失態をするなんて思わなかったぞ」


 魔神の子たち。

 王都から岩窟に移動する時に戦って、岩窟から結晶に戻る時にもひとり倒したっけか。


「大賢者どもに封印されて幾星霜、ようやく復活したからには、今度こそわらわは目的を果たそう」

「そうはいきません。わたしたちがあなたを倒します」

「娘、あまり跳ね返るものではないでぞよ」


 大悪魔が指を鳴らす。

 芽吹さんのまわりに黒い槍が無数に召喚され、それらは気がついた時には、芽吹さん目掛けてギュッと突き出されていた。

 芽吹さんは上手くかわして、槍の包囲網から抜ける。


 流石は俺の相棒、血塗れ芽吹さんだ。


「無駄ぞ、その槍はすでに当たっておるのだ」


 グシャリ、グシャリ、グシャグシャリ。

 肉と血がボタボタと飛び散った。


 不快な音に目を見開く。

 芽吹さんの身体から、黒い槍が飛び出していた。

 まるで、エイリアンが腹を突き破って生まれてくるかのようであった。


「なっ、そんな……」

「深淵アーティファクト『外れぬ黒槍』ぞ。槍が構えられた時には、すでに当たる未来が確定しているのだ」

「ミスター・加納、ふせてください」


 エージェントGの声が聞こえた。

 直後、俺の頭のうえを通り抜けて、無数の光の矢が大悪魔に向かって突き刺さった。


 光線のようなまばゆい輝きを放ち、敵へ命中するなり爆発を起こした。ビヂビヂっと雷の放電音のようなものもきこえる。


「ダークスカイの十八番のひとつ『因果の機微』です。残念ですが命中率100%のアーティファクトを持っているのはそちらだけではありません」

「ほう、小賢しいな、結社のエージェント。まるでかつての大賢者どものようだぞ」

「ッ! 事象焼却が効かないのか……!」

「すまぬが、その光の設計者はわらわの祖父じゃ。反対アーティファクトもわらわの手にある」


 大悪魔は指を鳴らした。

 エージェントGは何かを察してカササっとその場を飛び退く。

 しかし、直後、背後からせまる黒い大剣に身体を真っ二つにされてしまった。


「ばか、な……これほど強力なアーティファクト、回数制限が、あるはず、なのに……」

「わらわは命中率100%のアーティファクトを7つ所持しておるのだ。残念だったな、結社のエージェント」

 

 俺は生き絶えるエージェントGを横目に見ながら、視線を大悪魔へと移す。


「ほう、おぬし只者ではないな。仲間の死にまるで動揺しておらんではないか」

「どうせマッサージで生き返れますから」

「マッサージがなにかはわからぬが、クズのような思考じゃな」

「でも、仲間の分だけマッサージさせていただきます。覚悟してくださいね」


 俺はコキコキと拳を鳴らした。

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