あなたはマッサージ師というものをまるでわかってない
加納豊は『無限外套』を脱ぎ捨てて、シャツ一枚になると袖を巻くしあげていく。
「はは、わらわと戦おうと言うのか、勇者。お前が生きているのは、ただの偶然なのだぞ。たまたま当たりどころが悪かっただけぞ」
「御託は結構です、お客様。施術を開始します」
加納は深く踏みこむ。
地面がひび割れた。
加納流の教えは『常在按摩』。
マッサージ師として生涯の全てを至高のマッサージ術の鍛錬と発展に捧げることだ。
過去と向きあい、加納流の技を使うことを決めた加納豊の一挙手一投足は、もはやすべてがマッサージだ。
彼こそマッサージを終わらせた男『ザ・マッサージ』加納豊である。
足場が耐えきれないほどの強靭な脚力で打ち出された195cm110kgの質量が、魔神ヤギナ・コ・カリトノスをふっとばした。
ありえてはいけない強さ。
「ッ!? ミスター・加納、あなたはただの人間ではないのですか?!」
「マッサージ師ですからね」
軽く返事をする加納。
その隙に、ヤギナは加納を押しのけて、彼の横っ面をぶん殴った。
常人なら消し飛ぶ痛烈な一撃だ。
「ステータスも無いのに勝てるわけがないのだぞッ!」
フラついた加納へ、ヤギナはさらにワンツーのコンビネーションを打ち込むと、強力な蹴りあげをお見舞いした。
加納の身体が10mの高さまでふわっと打ち上げられた。
「マジンゲイザーッ!」
ヤギナの目がピカッと光った。
どす黒い光線が照射される。
直撃。加納が黒い炎に包まれる。
叫ぶエージェントG。
騒音で目覚める芽吹琴葉。
「加納さん……? 加納さんッ!」
思わず叫んだ。
「よかったです。1日に何度も『
呑気なこと言いながら、黒い炎が消し飛び、加納が地上へ降りてくる。
「なんだ、それは……っ! わらわのマジンゲイザーを受けて生きているだと?!」
「『
「マッサージ師ってみんな加納さんみたいなんですかね? なんで地球が無事だったのか疑問しかないんですがそれは」
芽吹はマッサージ師という生き物に対する懐疑心を高める。もう加納さんを歩く核弾頭と呼ぶのはやめて、核兵器の方を爆発するマッサージ師に変えたほうがいいんじゃないだろうか。
超越的な施術を繰りかえし、加納はヤギナの攻撃すべてを無力化しつづける。
「マジンゲイザーッ!」
「『
「マジンパンチッ!」
「『
「マジンキックッ!」
「『
「だぁああああ! その技ほとんどインチキではないかッ?!」
「あなたはマッサージ師というものをまるでわかってない。マッサージ師とは他人を勝手に気持ちよくする権利を与えられた超特権階級の人間を指す言葉です。人類の幸福度を、その指先ひとつに一任された存在だと理解してください」
「そんな壮大だったんなんて、わたしも初めて知りました、加納さん……」
「だから、俺は倒れません。この指が世界に幸せを届けられると知っているから」
「いい感じに締めくくろうとしてもダメです、加納さん。大量破壊兵器にしか見えません」
加納は腕をクロスさせ両肩に波動秘孔を突いた。『
拳を握りしめる加納。
放つのは伝家の宝刀『
『
最も短い「波動秘孔ひと突きコース 1億円」でも、お客が入店したら施術をするまで数十秒は掛かってしまう。
客のなかにはマッサージ界の重鎮や、国際マッサージソムリエもいて「突かれるのは雑な気がして嫌だ」と文句を言ったりもする。
そのため、全身揉みほぐし20分コースや、40分コース、時には60分コースの施術をしなくてはいけなかった。
加納豊は1日の平均睡眠時間5分15秒で1年間頑張ったが、ある日ついに倒れてしまった。
ヤケクソになった彼が、病院から帰ってきた時、天才・加納豊は『
これには国際マッサージ委員会も「そ、そう来たかぁ〜!」と納得するほかなかった。
「き、き、き、きもちぃぃいいいいいーッ!」
『
同時に加納の背後では「加納さ〜ん、わたしたちいますよぉ〜……(サァ)」と芽吹とエージェントGたちも昇天していく。容赦なく巻き添いをくらっていた。
「は、ははははは、わらわはこのまま気持ちよくなるが、お前の仲間も道連れだぁあああ♡ 一生後悔するがいい、わらわを倒すために、仲間を犠牲にしたことをなぁあああっ!♡」
「死んでも大丈夫ですよ。また生き返らせますから」
「このクズ外道ぉぉぉぉおおおおおッッ!!! うわぁああああ気持ちィィィィィィィイッ────────」
『
暴走するマッサージエネルギーの奔流。
魔神ヤギナ・コ・カリトノスの身を気持ちよくしただけでは飽き足らず、結晶ダンジョンそのものまで勝手にマッサージしはじめてしまう。
ダンジョンが快楽に悲鳴をあげて、崩壊しはじめた。
直後、クリスタルの霊峰の山頂付近が大爆発を起こして、吹き飛んだのであった。
空から降り注ぐ結晶の落下物。
エスタの町にふりそそぎ破壊の波が広がる。
幸にして怪我人はいなかった。
空から降り注ぐ結晶を見上げていた人々はこの世の終わりを感じ、同時に結晶ダンジョンがまたしばらく休業になることを悟った。
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