25階層 深淵デブ再来


「ここが岩窟ダンジョンの最深か!」

「なんだか不気味さが増しましたね」


 最後の深度。

 ダンジョンハウスの掲げた大稼ぎ祭り『ゴールドラッシュ』の最終地点。

 俺の無限外套はいまやすっかり虹色の魔力クリスタルで埋まっているわけで、俺たちのゴールドラッシュは成功したと言えるだろう。

 

 暗黒色の迷宮は、かつてのチュートリアルダンジョンを彷彿ほうふつとさせる。

 黒曜石のようであり、光沢の輝きのおかげで微妙に明るい迷宮を進んでいく。

 

 のそりのそりと足音が聞こえる。

 緊張が高まる。角を曲がる。

 すると、懐かしいモンスターに出会った。


「デブですか。久しぶりです」


 チュートリアルダンジョンの後半戦でこれでもかと倒したデブであった。

 片手にランタンをぶらさげて、もう片方の手にはナタをもっている。


 身長2mの恰幅の良い大男だ。

 デブは俺たちの存在を認めるなり、見た目に反して、素早い動きで接近してくると、まわりこんで芽吹さんたちへ襲い掛かった。

 ナタをふりあげ、勢いよく振りおろす。

 

 マンチェストはハンマーで受け止めた。

 だが、あまりにもデブのパワーが強すぎる。

 マンチェストは「くっ!?」とうめくと、膝を屈して、地面に押し倒されてしまう。


「この私を筋力で上回るとはッ!」

「マンチェストさん、退いてください!」


 マンチェストに二撃目を加えるデブ。

 芽吹さんはウォーターボールでデブを撃ち、注意を引くとマチェーテで斬りかかった。

 デブはナタで重刃を受け止める。

 暗黒に咲く火花。

 金属のぶつかる甲高い音が、暗黒の迷宮に響き渡る。

 

「こいつ、強いッ!」


 パワーで押し返され、芽吹さんは迷宮の壁に叩きつけられた。

 デブはそのままターゲットを変更し芽吹さんへ斬りかかろうとし──俺はその手首をつかんだ。


「デブ、お前は俺と気持ちよくなる約束だろう」


 俺を忘れるなんて酷いじゃないか。

 

 デブは俺の腕を振り払い、ターゲットを俺へ変更し、ナタで斬りかかってきた。

 人差し指と中指ではさみこみナタを止める。

 デブは武器を引こうとする。

 だが、動かない。動かさせない。

 そうは俺が許さない。


 ジェントルフィンガーlv3


 デブの額の波動秘孔を突く。

 デブはたまらず気持ちよくなって昇天した。


 芽吹さんとマンチェストは、荒く息をくりかえし、たちあがると額の冷汗をぬぐった。


「加納さん、助かりました」

「カノウ君がいなければ危なかった! ご機嫌最高に礼をのべよう!」

「紳士は守るために戦うんです。この指にかけて仲間を危険な目にはあわせません」

「加納さんはたまにイケメンになるからズルいですよね」


 俺たちは光の粒子となって消えたデブを見上げる。


「恐ろしいモンスターでした……深度24のゴツゴツコロガリムシでかなりヤバいと思いましたけど……わたしとしては、まだいけると思ってたんですよね」

「うむ、明らかに強さの段階が変わったようだ! ここは岩窟ダンジョンであって、岩窟ダンジョンではないのかもしれない!」


 岩窟ダンジョンじゃない。

 デブとの再会が、俺にその言葉をより鮮烈に印象づけた。ここは深淵に近い領域なのだろう。


 深度25の攻略はいままで以上に慎重に進められた。

 倒せば、レベルアップがはかどるとのことで、芽吹さんとマンチェストは二人一組でデブを倒していた。この2人が協力すれば強大なモンスターであるデブも倒せないことはなかった。


 手順はこうだ。

 ①まず芽吹さんがスキル:致命の一撃による不意打ち&ステータスバフ獲得から入る。

 ②そこからマンチェストと2人でボコボコに殴る。

 以上。

 

 その間、俺はほかのデブがこないか監視しつつ、来たらマッサージしていった。

 

 結構レベルが上がった実感があった。

 なので「ステータス」とつぶやいた。


 ──────────────────

 加納豊

 レベル345

 HP 24,527/24,527

 MP 20,024/20,024


 補正値  

 体力   20,527

 神秘力  19,524

 パワー  19,741

 スタミナ 18,523

 耐久力  18,019

 神秘理解 6,217

 神秘耐久 5,950


 ユニークスキル

 ≪肉体完全理解者≫


 アビススキル

 深淵の先触れ

 深淵の鑑定

 深淵の囁き


 スキル

 ゴッドフィンガー lv3

 疲労回復秘孔 lv3

 ジェントル・フィンガー lv3


 装備品

 『追跡者の眼』

 『下僕の手記』×10

 『7人の騎士』

 『無限外套』


 ─────────────────


 あれ?

 もう2万の大台にのってるステータス君がいるんだが。

 レベルもめちゃくちゃあがってるし。


「加納さん、あれって……」


 芽吹さんに言われて前を見る。

 黒い鳥居があった。

 霧により道を塞がれた鳥居。

 霧に近寄る。

 白い文字で『アビスボス:深淵の芸術家』と書かれていた。

 どうやらラストバトルの時間が来てしまったようだ。

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