レベルアップします? お金は取りますよ?


 俺と芽吹さん、マンチェストの先行攻略組は21階層へ足を踏み入れた。


「おお、まさか21階層に到達する日が来るなんて! 今日はなんてご機嫌最高な日なんだ!」


 たった7日間、毎回ルートが変わってしまうダンジョンで21階層を目指すのは彼のようなS級のベテランでもなかなかに難しい物なのかもしれない。

 

「今日はもう帰ってもいい気分だ!」

「だめですからね、このまま行きますから」

「先を急ぎましょう、芽吹さん」


 俺たちは奥を目指して再び、ゴツゴツコロガリムシをマッサージする作業に没頭した。


 レベルアップの音が響く中、俺はステータスを開いて、ジェントルフィンガーをlv3まであげる。


 ────────────────────

 ジェントル・フィンガーlv3

 消費MP:30

 波動秘孔へ指圧を成功させると快楽度三倍。

 効果:快楽度50

 ────────────────────

 

 快楽度三倍?

 そして基礎快楽度が50だと?

 もうこれでいいじゃん。


「あっ……またぶっ壊れスキルですか……」


 芽吹さんにステータスをのぞかれて暗い表情をされる。

 まずい。ヤンデレルートの香りがする。誰かこの子に強スキルあげて。


「おや、ジェントルフィンガーlv3? いったいなんだい、そのご機嫌最高なlvの響きは!」

「これはですね、かくかくしかじか──ということでしてスキルの効果が強化されるんですよ」

「なん、だと……っ」


 マンチェストはハンマーを取り落として、目を丸くする。


「攻略家30年やっててやってはじめて聞いた……」

「よかったらマンチェストさんのスキルもレベルアップしましょうか?」

「できるのかい!?」


 ん? でも、よく考えたらステータス見れないな。

 

「マンチェストさん、ステータス開けますか?」

「スキルなら、この通りさ!」


 マンチェストが「スキル!」と叫ぶと、ステータスよく似た半透明の表示が中空に現れた。

 

 マンチェストは3つのスキルを持っており土管をつくりだす『ド・ドカン』強力な重撃を放てる『ド・バゴン』爆発する『ド・ドン』の三つだ。……爆発する?


 試しにド・ドカンのレベルをひとつあげると、スキル欄の効果が更新された。

 

「一日に二つドカンを作れるようになったぞッ! 素晴らしいご機嫌最高絶好調だ!」


 大変に喜んでいる。

 マッサージ師は人を喜ばせるのが仕事。

 ゆえに俺も嬉しくなり、マンチェストのスキルをそれぞれlv3にあげてあげた。

 

「おおおおおおおおお! ドカン、ミッツ! バゴン、ミッツ! ドン、ミッツ!」


 暗号のような言葉を叫び狂喜乱舞するマンチェスト。

 彼のスキル群は基本的に使用回数が増えるタイプの順当強化をしたと見ていいだろう。


「どこまでも驚愕でご機嫌な勇者だ、アガサ!」

「それでは、スキルlv3を三つで30万マニーになります」


 マンチェストは一瞬固まり「ん、ぁぁ、お金取るのね……」としょんぼりした顔になる。


「大人ですから」

「ですね」


 俺と芽吹さんはその場で財布をださせ、マニーを抜いて、軽くなったそれをマンチェストに返した。

 

「まあ、しかし、私のスキルが超絶進化したのは最高! それに30万マニーで済むなんてよくよく考えれば僥倖さ!」

「加納さん、もっと取ったほうがよかったですよ」

「まさしく! 勇者カノウ、そのスキルで商売をするなら、lvアップひとつにつき30万マニーはとってもよし! スキルのレベルアップには無限の需要があるぞ!」

 

 もっとお金取れたのか。


「芽吹さん、戻ったらひと稼ぎしましょう」

「ですね」


 そうこうしているうちに、俺たちは深度22、23、24、と順調に攻略していき、やがて最深とされる深度25にたどり着くのだった。


「ここまでで3日が経過し、残りは15時間。うむ! 素晴らしく余裕がある! ご機嫌最高だ!」

「ついにラスト深度……頑張りましょうね、加納さん」


 俺は芽吹さんとマンチェストを連れて、暗黒の迷宮を進んだ。

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