ボス:ゴツゴツアナホリック


「これはボスの間だ! ご機嫌最高絶好調に危険なエリアってわけさ!」

「知ってますよ、ボスは倒したことがあるので」

「だろうな! 君たちの実力はご機嫌すぎる!」


 マンチェストは霧に近づいて「ボス:ゴツゴツアナホリック」と半透明な文字を読み上げた。


 これまでの経験から言って次のボスの名前だろう。


 俺がうなづくと、マンチェストは霧の白文字をなぞった。白文字が黒色に変色していき、やがて霧が晴れた。


 霧の向こう側は荒廃とした大地だった。

 もちろん、空なんてない。

 ただ、不思議なことに夜空のような星々の輝きの宿る天がみえた。


「ダンジョンは空から降ってきたとされているのさ!」


 マンチェストは胸を張ってそんな事をほざく。

 

 チュートリアルダンジョンで深淵の下僕たちを倒した時もそうだったが。

 ダンジョンという空間はまともな感覚で語るのは間違っているのだろう。


 夜空と岩の大地にはさまれ、その境界線を縫うように歩いていくと、やがて地響きが聞こえはじめた。


「来る」


 マンチェストはカッと目を見開いて「ド・ドカン!」と意味のわからない言葉を叫びながら、ハンマーで地面をぶっ叩いた。


 巨大な土管らしきものが地面から生えてきた。

 土管の底から唸り声と、地を揺らす轟音とともに、何かが湧き上がってくる。


「これは……」

「私のスキルさ! ご機嫌最高だろう?」


 土管の底から何かが飛び出した。

 デカイ。圧倒的にデカイ。

 20m強の全長を誇る細長いソイツ。

 ソイツはマンチェストのスキルで地面の底から強引に引っ張り出されたことで、かなりパニクっているらしい。

 地面のうえでのたうちまわっている。


「加納さん! ツチノコ! あれはツチノコですよ! わたしたちはついにツチノコを見つけたんです!」


 芽吹さんが鼻息荒くして、目をキラキラさせている。

 お願いだから落ち着いて欲しい。


「芽吹さん、ツチノコは異世界にいません」

「じゃ、じゃあ、加納さんにはあれがナニに見えているんですか!?」

「ゴツゴツアナホリックですが」


 俺とマンチェストは駆け出して、ゴツゴツアナホリックに引導を渡しにいく。

 背後で「ぁぁああああー! ツチノコォォォオオオ!」と悲鳴じみた声が聞こえる。


「ド・バゴンッ!」


 マンチェストはスキルを発動しながら、強烈な一撃でゴツゴツアナホリックを叩いた。

 体長20mの生物を吹っ飛ばすさまは壮観であった。


 ゴツゴツアナホリックは10mほど離れた地面に落下する。

 と、同時に地面目掛けて、クチバシを突き立てて、ぐるぐる回転しだし、地面の下へものすごい速さで戻っていってしまった。


「もう一度、土管を使えますか?」

「すまん。あれは1日1回しか使えないんだ。ご機嫌最高だろう?」

「わかりました。では、こっちでやります」


 『波動按摩ウェーブ・リラクゼーション


 地面を拳で叩いた。

 直後、さっきの土管からゴツゴツアナホリックが飛び出してきた。

 

「どういう仕組みですか?!」


 芽吹さんは叫ぶ。


 俺はゴツゴツアナホリックの落下地点に素早く移動して、そこでマッサージの構えを取る。

 そして、タイミングを見計らい放つ。


 『秘孔十六連星エデン・オブ・シックスティーン


 すべてをスキル:ジェントル・フィンガーで置き換えた、大幅強化の速突きだ。

 機関銃のごとき速度で16発撃ちこむと、あまりの快感にたまらずゴツゴツアナホリックは昇天した。


 光の粒子となって夜空へ還っていく。


 ピコーンピコーン!

 ビコビコピコビコーン!


 ピコピコ言いすぎてちょっと音が濁って聞こえてくる。


「なんという連打……ご機嫌最高すぎる、そんなこともできたのうか、勇者カノウ」

「マッサージ師ですから」


 俺は空から落ちてきた石をキャッチする。

 無骨な石だ。

 アイテム表示は『岩竜の魂』となっているので、ゴツゴツアナホリックのボスドロップで間違いないだろう。


 ステータスを確認する。


 ──────────────────

 加納豊

 レベル291

 HP 15,063/15,063

 MP 10,580/10,580


 補正値  

 体力   11,063

 神秘力  10,080

 パワー  10,799

 スタミナ 9,493

 耐久力  9,715

 神秘理解 4,001

 神秘耐久 3,909


 ユニークスキル

 ≪肉体完全理解者≫


 アビススキル

 深淵の先触れ

 深淵の鑑定

 深淵の囁き


 スキル

 ゴッドフィンガー lv3

 疲労回復秘孔 lv3

 ジェントル・フィンガー


 装備品

 『追跡者の眼』

 『下僕の手記』×10

 『7人の騎士』

 『無限外套』


 ─────────────────


 ついに5桁の王台に乗ったか。

 ん、そういえば、ジェントル・フィンガーのスキルレベルを上げられたんだったな。

 あとであげておこうか。


「勇者カノウ、その石は?」

「ボスドロップですけど、効果のほうはさっぱり不明です」


 俺はトボトボ近づいてきた芽吹さんに石を渡してあげる。

 芽吹さんは「ツチノコぉ……」と寂しそうに言いながら石を抱きしめた。


「未知のアーティファクトを査定するにはS級ダンジョンハウスの資料館を使えばいいさ!」


 そういえば『追跡者の眼』も、ハウスマスターにS級ダンジョンの『結晶』で査定してもらったんだったな。

 思えば、俺の手持ちにはまだ役割の判明していないアーティファクトと深淵アーティファクトがある。

 次にS級ダンジョンに行く時に、調べてもらったほうがいいだろう。


「では、行きましょうか」


 俺は「ツチノコぉ……」と悲哀にくれる芽吹さんを小脇にかかえ、マンチェストと共に、深度21へと降りていった。

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