ジェントル・フィンガー


 

「そろそろ代ろうか! 疲れて来ただろう! 私も少しくらいは戦おう! そのほうが仲間って感じがしてご機嫌最高だろう!」

「いや、体力の方は大丈夫ですよ。それにレベルアップがしたいのでこのままいかせてください」


 マンチェストとの共同戦線は成すには成されたが、実態はちょっと変わった戦線となっていた。背中を合わせてせまりくるゴツゴツコロガリムシを倒す……なんてことにはなっていない。


 というのも、マンチェストがゴツゴツコロガリムシをハンマーで5回ぶったくよりも、俺がマッサージした方が明らかに効率がいいのだ。


 現在はタイムアタックの最中ともいえる。

 いかに速く最奥へたどり着けるか否かが問われているのだ。

 ゆえに効率重視なのは仕方がない。


 『追跡者の眼』で1分に一回のエンカウントをしつつ奥へと進む。


 ピコーン

 ピコーン

 ピコーン

 ピコーン


 コロガリムシたちをマッサージする度に、レベルアップの音色が響き渡る。


 だんだん、エンカウントの感覚が短くなってきた。

 40秒に一回、30秒に一回、20秒に一回。


 ピコーン

 ピコーン

 ピコーン

 ピコーン


 足元の床の跡も、どんどん濃い赤色になっていく。

 近い。階段はすぐそこだ。


 ピコーン

 ピコーン

 ピコーン

 ピコーン

 スキル『ジェントル・フィンガー』を習得しました。


 ん?

 久しぶりに聞いたあの声だ。

 チュートリアルダンジョンじゃなくても、あの声は聞こえるのか。


 新しいスキルが手にはいったとなると、確認したい衝動に駆られる。

 かなりレベルアップもしている感じにピコ太郎していたし。


「ステータス」


 ──────────────────

 加納豊

 レベル278

 HP 13,850/13.850

 MP 9,501/9,501


 補正値  

 体力   9,850

 神秘力  9,001

 パワー  9,677

 スタミナ 8,573

 耐久力  8,710

 神秘理解 3,842

 神秘耐久 3,621


 ユニークスキル

 ≪肉体完全理解者≫


 アビススキル

 深淵の先触れ

 深淵の鑑定

 深淵の囁き


 スキル

 ゴッドフィンガー lv3

 疲労回復秘孔 lv3

 ジェントル・フィンガー


 装備品

 『追跡者の眼』

 『下僕の手記』×10

 『7人の騎士』

 『無限外套』


 ─────────────────


「おお、加納さん、もしかして新しいスキルを覚えたんですかね?」

「そうですよ。ジェントル・フィンガーって名前です」

「紳士な加納さんにぴったりなスキルですね」


 ステータス表示を指でなぞって詳細を開く。


 ────────────────────

 『ジェントル・フィンガー』

 消費MP:10

 波動秘孔へ指圧を成功させると快楽度二倍。

 効果:快楽度40

 解放条件:指圧により10,000の命を昇天させる

 ────────────────────


「いや、効果が全然ジェントルじゃないんですけど!」


 芽吹さんはベタにズッコケそうになりながらも、なんとかもちこたえる。


 ジェントル・フィンガー。

 名前を聞いた限りだとわからなかったが、言われてみれば確かにジェントルな能力だ。

 ジェントル、紳士、つまり、紳士には時に指先一つで敵を屠り……じゃなくて、癒して昇天させ、仲間を守る場面が存在するということを込めたゆえのネーミングだろう。


 端的に言って。攻撃特化──マッサージ専用指圧術と見ていいだろう。

 しかも、波動秘孔への指圧成功で快楽度2倍だと?

 俺が波動秘孔を突けない訳がないので、実質的に常時ベース快楽度80を誇る指圧を行えるという訳じゃないか。

 今までが疲労回復秘孔という快楽度20の技を攻撃に流用して使っていたことを考えれば、この80という数字は驚異的だ。


「これからもっとマッサージが楽しくなります」


 俺はそう言い、先を急いだ。


「待ちたまへ、そんなご機嫌最高にスキルをゲットできるものなのかい、勇者ってやつは?」

「そんなポンポン手に入るわけじゃないです」

「それなりにはっていう程度ですよね、加納さん」

「こりゃ敵わんぜ、本当にご機嫌最高な連中じゃないか! 人類の救世主にふさわしい!」


 疲れたような、愉快なような、変な笑い声をあげるマンチェスト。


「おや? ありゃ……」


 ふと、たちどまり、こちらを見てくる。

 ずいぶん久しぶりに見た気がする。

 鳥居だ。霧により、行く手を塞がれた鳥居があった。


 

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