岩窟ダンジョン


 最前線では凄まじい攻略劇が繰り広げられていた。

 

「前列交代! 第二列前へ!」


 統率の取れた動きで、攻略家たちは左手に盾を、右手にメイスをもち、手に馴染む重量に全霊を込め、大きくふりあげ、モンスターを叩く。

 岩窟ダンジョンもまた、殴打系のダメージがよく通る岩系モンスターの巣窟なのである。


 攻略組が5列でスクラムを組み、ひとつの生命体のごとき動きで、戦車のようにモンスターを叩き潰して進んでいく。

 

 岩窟ダンジョンのモンスター──ゴツゴツコロガリムシはなす術もなく、どんどん潰されていく。

 体長1mほどの大きな岩肌をもつダンゴムシたちは、攻略組の進撃をとめようと、同じようにスクラムを組んで、迷宮の奥へは行かせまいとする。

 だが、見たところ、ゴツゴツコロガリムシの方が押されているようだ。


「加納さん、攻略組すごい気迫ですよ」

「でも、あっちにはたぶん階段ないですよ」


 だって、足跡が薄いから。

 

「それじゃあ、攻略組の方々へ伝えたほうが良くないですかね?」

「さて、それはどうでしょう」

「というと?」

「シンプルな話、俺と芽吹さんだけで動いたほうが後々面倒にならずに済むってことですよ」


 エージェントGの言葉によれば、大悪魔を復活させ、そして倒すためには岩窟ダンジョンの最奥アーティファクトが必要らしい。


 複数人で攻略した場合、収穫物の所有者を誰にするかで揉めるのは目に見えている。

 

 攻略家が平常時はチームを組まないのも、そこらへんの収穫の問題があるのだろう。


「芽吹さん、俺たちは攻略組とは思惑が違います。先に行かせてもらいましょう」


 俺は『追跡者の眼』の位置を直して、足跡の濃い道を選んで歩きはじめた。

 

 攻略組の道から外れると、すぐにゴツゴツコロガリムシを見つけた。

 

「よーしよしよし──ふんっ!」


 手招きしてノコノコ寄ってきたところを、揉みほぐして、最後にかかとで踏み潰して昇天させる。


 最初の1匹は丁寧に施術すると決めている。

 あとは流れ作業だが。


 ピコーン

 ピコーン ピコーン

 ピコーンピコピコーン


 レベルがあがることあがること。

 ただ、いちいち確認していたらキリがないので、あとでのお楽しみとする。

 俺たちはゴツゴツコロガリムシを倒し、魔力クリスタルを回収しながら、深度16を目指した。

 階段を見つける。


「流石ですね。加納さんに任せておけば大抵のことは間違いないですね」


 誇らしげに言う芽吹さん。

 ふと、後ろの方から攻略組がやってきた。


「なっ、貴様! なぜ我々より早く階段を見つけている!」


 説明な面倒なので、芽吹さんの手をひいてさっさと降りてしまう。

 時間が惜しいのだ。

 足並みを揃えることを強要されたくはない。


「貴様待て! そこのマッチョ! おい、なんで無言で行こうとしてるんだっ?!」


 攻略組が怒鳴り声をあげて走りだす。

 と、そこへ、俺たちと攻略組の間を遮るようにゴツゴツコロガリムシたちが参上してきた。


 ちょうどいいタイミングだ。


 俺たちは16階層へと降りた。


「ちょっと強くなってきましたね」


 19階層に到着した頃。


 芽吹さんはマチェーテで四度ゴツゴツコロガリムシを叩いて、黒い液体に変えて、汗を拭っていた。


 俺は疲労回復秘孔でゴツゴツコロガリムシを突き、光の粒子に変える。

 ついでに芽吹さんも突いて「らめええええ!」とさせておく。

 

 ピコーン

 

 懐かしい音を聞きながら、俺と芽吹さんは必然として攻守を交代し、俺が迫りくるゴツゴツコロガリムシをさばくようになっていた。


 ピコーン

 ピコーンピコーンピコーン

 ピコーンピコーン


 20階層まで破竹の勢いで下ってきた。


「この感じ懐かしいですね」

「今回はレベル上げより深度を目指すことが目的ですよ」

「はは、確かに」


 20階層へ降りてくると、ダンジョンの雰囲気が変わった。

 天然の洞窟のような様相をしていたダンジョンが、今では暗黒世界の要塞にでもまよいこんだかのように、真っ黒い煉瓦で組まれた迷宮と変わっている。

 ミスター・マリオの言っていた最深領域だろうか。


「これはこれはまさかとは思ったが、本当に最短ルートを来てしまうなんて! なんてご機嫌最高な攻略家なんだい、君たちは!」


 声にふりかえると、ミスター・マリオがデカいハンマーを背負って、19階層と20階層を繫ぐ階段を降りてきていた。


「ついてきたんですか」

「イエス! 君たちが攻略組から離れたのをきっかけに勘が働いたのさ! そして、この通りってわけさ!」


 ここまで6時間で降りてきたわけだが、そのペースについてこれたとなると、このミスター・マリオは相当な実力者に思える。


「君、名前をカノウと言うらしいじゃないか。カノウ君、君はもしや噂に聞く伝説の勇者ではないのかい?」

「加納さん、正直に答えないでくださいね。みるからに怪しい風貌です。情報を握られたらなにをされるか分かったモノじゃありませんからね」

「そうですよ。俺と芽吹さんは伝説の勇者です」

「ああーもうーこの素直さん!」


 芽吹さんはダー!っと頭を抱える。


「なら話は速い。協力しないかい! ご機嫌最高絶好調のパートナーを手に入れるチャンスだよ!」

「最高のパートナー、と」

「いかにも! 私はS級冒険者序列3位! 筋肉の攻略家マンチェスト様さ!」

「S級冒険者……! 加納さん、この人はすごい人ですよ!」

「そうなんですか」

「冒険者登録の時に聞いたんですけどね──」


 芽吹さんいわく。

 S級冒険者とは世界に10人しかいない超特別な冒険者らしい。

 ギルドへの貢献度で序列がつけられていて、つまり目の前のミスター・マリオことマンチェストさんは3位なので、なにが言いたいかと言うと、とてつもない冒険者だということだ。


「では行こうじゃないか! いざ20階層を攻略だ!」

「待ってください、マッチョさん」

「マンチェストと呼んでくれ、ママのつけてくれたご機嫌最高な名前をね!」

「最奥アーティファクトは俺たちがもらいます。そこを承諾してもらいたいです」

「もちろんさ! それで結構! ご機嫌最高! 私は攻略家として初のB級ダンジョン制覇の歴史に名を刻めればそれでいい! 君たちとともに!」


 どこまでもご機嫌で、いい人だ。

 ミスター・マリオだの、怪しい風貌の言っていたことが申し訳なくなる。


 ピコーンピコーン

 ピコーンピコーン


 マッチョと芽吹さんについて来てもらいながら、俺はマッサージを続けた。


「ほう……やはり、凄まじい……20階層のゴツゴツコロガリムシを一撃で屠るとは……」

「マンチェストさん。あれはマッサージですからね」

「ん? 突き殺しているのではないのかい?」


 俺はふりかえり、答えに窮している芽吹さんに助け舟をだす。


「マッサージです」


 ピコーン


 言いながらゴツゴツコロガリムシを昇天させ、光の粒子として爆散させた。

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