くされ縁
バリーデリー冒険者ギルドへのすぐ横にダンジョンハウスはあった。
『ゴールドラッシュ』なるイベントのせいもあってか、ダンジョンハウスの前にはとてつもない人だかりができていた。
ハウスの前には大きな掲示板があって『ダンジョン構造変化まであと4日!』と『現在、15階層までのマップを公開中!』と張り出されていた。
前回の構造変化から3日が経過し、その間に15階層まで攻略家たちが進んだということだろう。
驚異的なスピードだ。
「ダンジョンの構造変化には実は規則性があるのさ!」
ミスター・マリオはピンと指を立てて歯を光らせる。
「ダンジョンに長年潜っていると、ダンジョンの表情がわかるようになってくるぞ! 攻略家たちはそれをダンジョンの導きと呼んで、神聖なものとしているのさ!」
「なるほど。では、先遣隊はかなりのプロというわけですね」
「そうとも! ご機嫌最高のメンバーが突き進んでいるのさ! 今は20階層まで進攻したところ、そして、推測される最高深度は25階層。あと4日で10階層詰められるかが勝負だ!」
ミスター・マリオに「行ってらっしゃい!」と送り出されて、ダンジョンハウスへ足を運ぶ。
「おや? これはこれはカノウ君ではないかね」
「ハウスマスター、どうしてここに?」
ダンジョンハウスで待っていたのは、エスタの町の結晶でハウスマスターをしていた初老の彼だった。
「結晶ダンジョンの責任を追及され、こうしてB級ダンジョンの担当に降格されたのさ。王都よりこのバリーデリーの方が遠い。つまり辺境だ」
地方へ飛ばされ、担当部署も変えられたと。日
「結晶ダンジョンは岩窟ダンジョンよりランクが高いんですか?」
「もちろん。あそこはS級ダンジョンさ。遥か未来の人類がいつの日か最奥にたどり着くことができるかどうか……そういう領域の神聖な迷宮大霊峰だったのさ」
「そんなすごい場所だったんですか」
「ああ。でも、今はダンジョン崩壊が響いて、機能を停止し、迷宮内は異次元と化してしまっているけどね」
それたぶん俺のせいです、なんて言えなかった。
「クリスタルの外壁が再生していたから、おそらく数カ月で修復は完了し、また挑戦者を招き入れはじめるとは思うがね」
「なるほど。つまり、問題は無し、と」
「そういうわけではないがね……ところで、カノウ君はあの騒ぎの時ダンジョンに入っていなかったかね?」
「え?」
芽吹さんへ視線をおくる。
「いいえ。わたしたちは急用を思い出してすぐに出ました。それで危険なモンスターが出て来た話を訊いてすぐに町を離れましたよね。ね、加納さん」
「そうか……ならば、ザ・マーチを倒したのは君たちではありえんか……あのバケモノを無傷で倒す英雄が必ずいるはずなのだが……いや、もしかしたらダンジョンを出たモンスターは外の環境では生きられないのか……でも、ザ・マーチは自分で出てきてたし……」
ぶつぶつと独り言が止まらないハウスマスター。
「芽吹さん、いきましょう」
俺は受付に置いてあった15階層までのマップを手に取り、さっそくダンジョンへ向かうことにした。
「無料で公開なんて気前がいいですね、加納さん」
「本来、ダンジョン攻略は複数人、それも大人数が情報を共有するべきだとは思いますけど。個人での個人レベルの攻略じゃ効率が悪そうですし」
「たまにすごくマトモですよね、加納さんは」
ダンジョン内は暗い焦げ茶色の洞窟が延々と右へ左へ折れ曲がり、たまに緩やかなカーブを描いたりして続いていく迷宮だった。
結晶ダンジョンと違って、クリスタルが輝いていないのでちょっと視界が悪い。
中で攻略家たちとよくすれ違った。
ダンジョンから出て行く者たちの顔には、深い疲労と「俺の役目は終わったぜ」という、やりきった達成感のようなものが宿っていた。
みんな最前線の攻略組から離脱してきた者だろうか。
マップにそって階段を見つけて、どんどん降りていく。
結晶ダンジョンと違って下へ降りていくタイプのダンジョンだ。
最初のチュートリアルダンジョンとどこどなく雰囲気が似ている気がする。
懐かしい。
マップがあると一階層10分もかからずにスラスラ降りれてしまった。
また、マップのルートはこの3日間で大量の攻略家が行き来したせいか、すべてのモンスターが綺麗に狩り尽くされており、俺たちが戦闘することはなかった。
1時間ほどして、俺たちは洞窟探検を終え、15階層へたどり着いていた。
「『ゴールドラッシュ』に参加しにきた攻略家かい」
15階層には攻略拠点なるものが設置されていて、テントが何棟も設営されていた。
「ここで休憩して、物資を補給して、前線に追いついてくれ」
そう言われて、俺たちは食料と水を支給された。
すいぶん気前がいい。
どうやらハウスマスターは本気で『ゴールドラッシュ』を成功させて、結晶ダンジョンのハウスマスターとして返り咲こうとしているらしい。
「腐れ縁ですからね、ハウスマスターのためにもひと肌脱ぎますかね、加納さん」
「はい、行きましょう、芽吹さん」
俺たちは拠点の攻略家にマップを更新してもらい「前線はこの道を右にまがって──」と詳しい位置も教えてもらう。
そうして、俺たちは15階層の攻略組に追いついた。
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