隠密按摩
血まみれの芽吹さんを連れ、路地裏へと移動し、身体を洗ってもらう。
例のごとくスキル:ウォーターボールを応用で頭から水をぶっかけるスタイルだ。
路地裏のホームレスたちに奇怪な物を見る目を向けられた。実際に奇怪なので仕方ない。
露店で買った焼きたてのパンをあげるとサッと場所を空けてくれた。
俺は追っ手がいないか警戒しながら、待ち、それから濡れた髪の芽吹さんを連れて、王城へ向かうことにした。
「ブラックキングたちはどうしますか?」
「しばらく預かってもらいましょう」
馬と荷物はおそらく騎士団の駐屯地だ。
今向かえば、厄介なことになるのは目に見えている。
しばらくお留守番していてもらう。
王都の大通りをいく。
街は広く、しっかりと城を目指して歩かないと迷ってしまいそうだ。
石畳みで舗装された大通りをまっすぐに進み、城下の活気ある人混みにもまれ、俺たちは白亜の王城へたどり着いた。
城は外壁によってぐるっと囲われていて、そのまわりには、王都の周辺と同じように水堀があり、またしても橋がかけられ、見張りの兵士がいる。
正面から近づいたら、投獄の二の舞になりそうな予感がビンビンと伝わってきた。
「そもそも王って会いたいって言って会えるものですか?」
「加納さん、わたしもちょうど同じこと考えていました。普通に考えて会えないんじゃないでしょうかね」
国の指導者ということは、大統領とか、首相クラスの要人ということだ。
友達の家じゃあるまいし、アポなしは厳しそうだ。
とはいえ、アポをとってお行儀よく待つ気はない。
「仕方ありません。隠密で行きますか」
「? 加納さん、隠密なんて出来たんですか?」
「もちろん、マッサージ師ですから」
「理屈がおかしいですけど、今更気にしませんからね。でも、意外ですね。てっきり、見た目通りパワータイプ全振りだと思っていました」
俺は気配を消してみせる。
視線の動き、呼吸、指先、風の流れ、日差しの角度、気温、音、景色、すべての状況に適応していき、やがて俺の気配は完全に消失した。
「っ!? か、加納さん?! 加納さんが消えました!! どこ行ったんですか、加納さん!」
「ここにいますよ」
俺は一歩も動いていない。
「あっ、また見えるように……いや、それはもはな透明化能力に近いなにかですよ……」
「これもマッサージの応用技です」
「いや、そうはならないでしょ!」
「とりあえず、行ってきます。芽吹さんも出来るようならついてきてください」
『
それは気配を消して、マッサージを頑なに拒む客相手に強制的にマッサージを行い、マッサージ中毒におとしいれ、マッサージ師のマッサージ無しでは生きられない身体に作り変えることで、顧客開拓をする加納流の営業である。
「いや、それで堂々と営業名乗らないでほしいです」
「金持ちを狙って、このマッサージを効果的に使って加納家は急進的にマッサージシェアを広げたんですよ」
「マッサージシェア……?」
芽吹さんの言葉は脇に置いておいて、俺は真正面から王城へ侵入していく。
兵士の誰も気が付いてはいない。
ただ、計機がぶっ壊れたように狂い始めたことに「な、何事だっ!?」「とんでもないバケモノが近くにいるぞ!」と騒ぎだすだけだ。
芽吹さんは気配を潜めて、水堀を身軽に飛び越えて、外壁に張りつくと、そのまま駆けあがって中へ入ってきた。
庭師の芸術的作品たちでごったがえす豪華な庭園の片隅で合流する。
「加納さんのせいでこっちは警戒されっぱなしですよ」
「流石は芽吹さん、殲滅だけじゃなくて、隠密もできるとは」
「加納さんのせいで、わたしの技術が霞みまくってますけどね。ところで、それどういう原理なんです。最悪の営業技だとはわかりましたけど」
「簡単ですよ。自分の気配をマッサージして、昇天させて、気配という概念を無くしてるんです。だから、気配を薄くするとか、足跡を無くすとか、そういう話ではなくて、気配がないんです。すべてが零なんですよ」
「もうマッサージ師やめて、魔法使いとしてデビューしてどうぞ」
そんなこんなで侵入を果たした俺たちは、庭園の芸術たちの間をスタタっと移動して、王城の外壁へ張りつく。
芽吹さんは窓をピッキングしようとしていたので、俺はそれを拳で叩き割る。
気配が零なので、俺という存在がガラスを破壊したという事象自体、観測不可能だ。
結果として音は鳴らず、気がついたら、ガラスが割れて、床に散らばっているという状態になる。
「加納さん、それは人間がやっていい技じゃないですよね……?」
「徒歩で城まで来たせいで時間が押してます。ここから巻いていきますよ、芽吹さん」
こうして俺たち隠密チームは、誰にも気がつかれずに王の執務室を見つけるに至った。
──コンコン
「? 誰だね? この時間の訪問者はいないはずだが」
部屋のなかから、困惑した声が聞こえてくる。
「マッサージ師と殺し屋です」
「だからなんで正直に名乗っちゃうんですか、加納さん」
俺たちは執務室へ足を踏みいれた。
部屋の奥、窓辺の机では威厳あるジェスター王国国王が口をポカンと開けて──裸体をさらす幼なげな少女を膝に乗せこちらを見つめていた。
変態を発見。
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