ザ・マーチ
エスタの町はお祭り騒ぎであった。
「あっははは、大の攻略家がこれだけ集まってクリスタルコロガリムシ1匹に何もできないなんてな!」
「がははは、負けた負けた! 完敗だ! あー乾杯ー! なんつってがはははは!」
「おっほほ、面白れぇ、おっほほほ!」
もはや、ヤケクソである。
「何ということだ、冒険者ギルドとダンジョンハウスが総力をあげても止められぬとは……」
「ハウスマスター、責任問題──」
「ええい、わかっておるから! ちょっとは静かにしてくれないかね!」
ハウスマスターは頭を抱えた。
何でこうなった、意味がわからない。
どこか運営方針に問題はあったのだろうか。
どれだけ考えようと、ほかのダンジョンと同様にギルドが作成したガイドラインにそって、しっかりと運営管理してきたことは変わらない。
「いや、これ私、悪くなくねぇ?」
「でも、誰かが責任を取らないとです!」
「マジでありえないねえ」
ハウスマスターは腹を括ることにした。
とりあえず、早急にやることは決まっている。
ダンジョンの外周が壊れたこと、クリスタルコロガリムシが逃げ出したこと、それが23階層クラスの弩級の危険モンスターであること。
これらをクリスタルコロガリムシの進撃する方向にある町へいちはやく伝えるのだ。
ハウスマスターは冒険者ギルドへやってきた。
幸い、この建物は壊されていない。
「あ、ハウスマスター……」
「ハウスマスター君、覚悟は決まったかな」
エスタのギルドマスターは険しい顔でハウスマスターを睨みつける。
だから、私、悪くなくねえ?
「今やるべきことは決まっているのさ、だから、通信水晶を使わせてくれるかね」
「よかろう」
地図を広げて、目を皿のようにして、危険地域の情報を整理する。
「まずい、まっすぐに行かれたら王都じゃないか……」
ハウスマスターは最悪の予想をしながら、王都に通信を入れることにした。
『はい! こちら王都冒険者ギルドです!』
「こちら、エスタ冒険者ギルド、エスタのダンジョン『結晶ダンジョン』ダンジョンハウス、ハウスマスターです」
『はい! ご用件は何でしょう!』
「そちらへバケモノが向かってます」
「はい! ……え?』
ギルド嬢の困惑した声が聞こえてきた。
すぐに王都のギルドマスターに受け手が変わる。
『こちら王都冒険者ギルドギルドマスターだ。なにがあったのだね?』
ハウスマスターは鬼気迫る声で、何があったのかを伝えた。
『信じられん……だが、それは恐ろしい事態だな。わかったこれより、王都冒険者ギルドは緊急クエストを発令し、王国騎士団にも呼びかけてみよう。して、対象の名前は何と言ったか』
ハウスマスターは腕を組む。
クリスタルコロガリムシでもいいが、もはやこうなってしまったから種族名より、個体名をつけたほうがいいだろうか。
「現在、王都へ向けて侵攻中の第23階層より脱走したクリスタルコロガリムシは、現時点をもって『ザ・マーチ』と命名します」
『了解した、では、こちらは『ザ・マーチ』迎撃に向けてすぐに動こう』
ハウスマスターを頭を抱える。
まだ犠牲者は出ていない,
しかし、時間の問題だろう。
あれが王都にたどり着けば数百、数千、いや、数万単位の人が危険に晒される。
「あー……ザ・マーチとかかっこいい名前つけたけど、どっかの英雄が片手間にぶっ倒しててくれないかなぁ……」
「ハウスマスター、現実逃避している場合ではない。我らは第二、第三のザ・マーチが出てこないよう、ダンジョンを完全に封鎖せねばならないのだ」
ハウスマスターは青い顔をしてうなずく。
2匹目のザ・マーチ……考えただけで恐ろしい。
──一方その頃
クリスタルコロガリムシにようやく俺は追いついた。
「こらこら、みんなに迷惑だろう、ダンジョンに戻るんだ」
声をかけるとクリスタルコロガリムシが振り返ってくる。
クリッとした可愛らしい瞳。
見つめられると、つい愛でたくなってしまう。
が、向こうはそんなつもり毛頭ないらしく、俺の姿を認めるなり、丸々フォームへ変形し、高速で回転して暴れはじめた。
バインバイン跳ねて、時速100kmを越える速さで巨大質量が森を蹂躙する。
こらこらこらこら!
なんでいきなり元気になってんだ!
クリスタルコロガリムシは森を壊滅的に破壊しまくり、俺の周囲をぐわんぐわん周りまくると、突然、方向を変えて轢き殺しにきた。
なるほど、殺る気か。
「甘い」
素早く疲労回復秘孔を突こうとする。
だが、クリスタルコロガリムシは急に方向転換すると、時速100kmを逃走につかいはじめた。
逃がすか。
「『
地面へ拳を叩きつけた。
快楽の咆哮は波となり、地を駆け抜け、逃走者を背後からマッサージした。
一撃で無事に昇天させた。
『
あれだけ元気に跳ね回っていたクリスタルコロガリムシは動かなくなり、ぐったりと森に横たわった。
やはり、ダンジョンの外だと光の粒子にならないようだ。
ダンジョンで生まれたモンスターかどうかは関係なく、ダンジョン内か、ダンジョン外か、という部分だけが区別のようだな。
ピコーン
「またレベルあがったな」
──────────────────
加納豊
レベル256
HP 12,104/12,104
MP 8,101/8,101
補正値
体力 8,104
神秘力 7,601
パワー 7,897
スタミナ 7,253
耐久力 7,404
神秘理解 2,756
神秘耐久 2,709
ユニークスキル
≪肉体完全理解者≫
アビススキル
深淵の先触れ
深淵の鑑定
深淵の囁き
スキル
ゴッドフィンガー lv3
疲労回復秘孔 lv3
装備品
『追跡者の眼』
『下僕の手記』×10
『7人の騎士』
『無限外套』
─────────────────
「もう逃げ出して人様に迷惑かけちゃだめだぞ」
俺はクリスタルコロガリムシに背を向け、その場を去った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます