インパクト・リラクゼーション
俺と芽吹さんは最大の警戒をもって索敵をし、ゲールズ三姉妹を守りつつ、24階層を移動しはじめた。
数時間してオブジェクトを発見する。
「25階層へ登る階段は見つけましたけど……」
サドゥは階段の前で崩れ落ちた。
瞳には涙があふれている。
「ぅ、ぅう、私たちここで死ぬんですね……」
すすり泣く声があたりに響いた。
肩に手を置く、芽吹さん。
悲しげな顔をして抱きあうルーヴァとリィ。
俺は『無限外套』で使用可能になったスキル『ポケット』を開いてなかに詰め込まれた珍しそうな魔力クリスタルを眺める。
これはぜひとも査定に出したい。
俺の頭のなかでは危機感よりも、査定結果への興味が勝っていた。
おや、おかしい。
これでは俺が最低な男みたいだ。
俺って意外とダンジョンが好きなのかもしれない?
システムが馴染んできたのだろうか。
あるいは楽しみ方をわかったのだろうか。
「俺、ダンジョン好きになったかもしれません」
「この状況でよくそんか事言えましたね、尊敬しますよ、加納さん」
「危機感の違いでしょう。俺は帰る方法を思いつきましたから」
「「「え?」」」
皆が一斉に俺の方へ振りかえる。
「そんな方法があるんですか、加納さん」
「そ、それは?!」
「カノウさん、私を好きに抱いてください、だからお願いします、妹たちだけでも!」
「カノウさんがいれば大丈夫なのですっ! 大丈夫なのですっ! 大丈夫なのですっ! 大丈夫ですよねっ! 大丈夫なのですっ!」
「まあ落ち着いて。とりあえず残された時間を精一杯使いましょう」
俺はそう言って、24階層を隅々まで探索する事を提案した。
「ど、どうして24階層をそんなに調べるんですか?」
「広さを確かめたいんですよ」
俺たちは24階層をマッピングしつつ、クリスタルコロガリムシを殲滅しながら、その大きさを測量した。
しかし、あまりにも広大なため、とても隅々までマッピングすることは不可能な事に思えた。まあ、やるだけやってみるしかないのだが。
俺は壁をコンコンっとノックしながら、右壁にひっつくように歩き続けた。
芽吹さんに訝しむ視線で見られていたが、脱出のために必要なことだとだけ伝えておいた。
「ここです」
「え? なにか見つけたんですか、加納さん」
「見つけました。皆さん、ここが爆心地になります」
「「「「え?」」」」
「なので、マップのこの位置まで逃げてください」
「「「「はい?」」」」
「ダンジョンにマッサージをかけます」
「っ、ま、まさか……」
俺の言葉の意味を理解してくれたのは芽吹さんだけであった。
芽吹さんの目を見て、ひとつうなずく。
彼女にマップを渡すと、疑問符を浮かべるゲールズ三姉妹を連れて、急いで24階層の端っこのほうへ逃げていってくれた。
俺はこの場に腰を下ろしてしばらく待つこととする。
──2時間後
もうそろそろいい頃合いだろう。
俺は瞑想をやめて、ゆっくり腰をあげた。
両の親指に気を集中させる。
そして、右肩と左肩の波動秘孔を突いた。
『
この封印術は俺に施された特別な術だ。
14歳の頃、俺──加納豊は完全にマッサージの才能を覚醒させた。加納家最高の天才だと言われた俺のマッサージは世界情勢を動かした。
米国株式市場では歴史的大暴落が起き、世界に不況の波が広がり、第三次大戦がはじまり、混沌の時代が訪れた。
津波が島国を飲み込み、南極の氷が溶け、太陽の活動が活発になり、世界の休火山が目覚め、死火山は復活した。
結果として、俺のあまりにも強すぎるマッサージ力は封印指定された。
『
本来はこの封印術を俺にかけた66人の世界最高のマッサージ使いたちがいないと解除できない。
だが、14歳の俺は、封印をかけられた3日後には、自分で解除する方法を見つけていた。
もちろん、解除したことはない。
なので、18歳に成長して、さらなる成長を遂げた自分が一体どれだけの被害をもたらしてしまうのかわからない。
俺は結晶の壁にそっと手を添える。
俺の今いる地点はダンジョンの外周に当たる部分である。
そのため、この壁の先はおそらく山の斜面になっている。
つまり、ここを破壊できれば……じゃなくて、マッサージできれば、必然的に脱出口となるはずなのだ。
「久しぶりに使う」
完全マッサージ体質を15%解放する。
『
その分、身体にかかる負担も大きい。
慣らさなければ、俺は俺自身をマッサージしてしまうことになりかねない。
ダンジョンの壁に拳をこつんっと当てる。
そして、押した。
──『
瞬間、ダンジョンが快楽に叫び声をあげるのが聞こえた(幻聴)
押した壁が一気に崩壊しはじめる。
崩壊の波はどんどん広がり、右を見ても左を見ても、終わりが見えないほどに視界が良くなった。
予想通り、斜面であったらしい。
「施術完了──」
俺は自分へ『
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます