冒険者登録
池袋の夜中のように、足元に男たちが散乱する真ん中をぬけ、俺はウェスタンドアを押し開いた。
冒険者ギルドの中は朝だというのに、ぼちぼち人の姿があった。
好奇の視線が集まるなか「あっちで登録するんですっ!」とリィが案内してくれる。
ついて行くと受付にたどり着いた。
青色の制服を着た、俺たちと同い年くらいの少女が元気よく挨拶し、登録の手続きについてはきはきと説明してくれる。
「カノウさまと、メブキさまですね! では、こちらの装置に手をかざしてください!」
綺麗な水晶がカウンターを受付嬢は手で示す。
「これは?」
「結晶ダンジョンで手に入るアーティファクトですよ! 世界に560個しかない大変に貴重なものです!」
大変貴重か。
よくよく考えればアーティファクトって謎だな。
ただそれだけで価値のあるものなのはわかるけど。
たぶん人類未到達の未知の技術で生産されたものだろうし。
あるいは失われた技術だろうか。
深淵アーティファクトにミスター・ゴッドが驚いていたのもうなづける。
綺麗な水晶は冒険者の情報を登録するサーバーのようなものらしい。
水晶に情報を登録したあと、俺と芽吹さんは透明なカードを渡された。
カードには名前と冒険者ランク『D』の文字が刻まれていた。
「職業、スキル、冒険に使うアーティファクトなどは、こちらへご記入ください!」
透明なカードを水晶にかざすと、自由に文字を刻めるようになった。
自己紹介欄には、自由に記入していいとのこと。
「加納さんの職業はマッサージ師ですよね」
「整体師との兼業ですがまあ、マッサージ師ですね」
でも、あまりマッサージ師とは書きたくない。
職業としてのマッサージが嫌だから加納家とたもとを分けたのだから。
「でも、マッサージ師ですよね」
「……まあ、ほかの何者でもないので」
俺は産まれた瞬間からマッサージ師だった。
それ以外の自分を知らない。
なので「職業:マッサージ師 スキル:ゴッドフィンガー」と一応書いておくことにした。
スキルが貴重と知ったのと、アビススキルの類いはミスター・ゴッドに注意を促されたのですべては記入しないでおくことにする。
「冒険者ギルドは皆様の冒険をサポートします! 依頼者からのクエスト、未踏の土地の開拓事業、ダンジョン攻略! 夢と冒険が待っていますよ、頑張ってくださいね!」
というわけで登録は完了した。
「カノウさんもスキル使いだったなんて……」
リィは目元に影を落としている。
「私たち仲間なのですねっ!」
「いいえ、リィさんだけじゃないですよ。わたしもスキル使いですからね。ね? 加納さん」
「そうですね、3人仲間です」
「あらあら、私たちだけ仲間外れみたいですねぇ」
「リィ、あたしたちを仲間外れするとはいい度胸です」
リィが姉達にしばかれ出した。
美少女が揉みくちゃになっている。
「加納さん、見ちゃだめですよ」
そっとマチェーテが俺の視界を塞ぐ。
芽吹さん、やたらその武器を持ち出さないでくださいね。
──しばらく後
俺たちは結晶ダンジョンの入り口へやって来ていた。
「ダンジョンの最奥に眠る最奥アーティファクトを手に入れるとダンジョン完全制覇になるんですよぉ」
「アーティファクトを可能な限り掘って、回収することがダンジョン攻略の醍醐味ってことです」
「アーティファクト以外の資源ドロップも忘れずに、なのですっ!」
本来ダンジョンは、人類じゃない超常存在が何のためにか作り出した超自然オブジェクトとのこと。
冒険者ギルドがほうっておいたら危険なダンジョンを管理運営する役目をもっている。
そこで取れるアーティファクトは人類の技術では再現できない遺物ばかり。
ほかにも有効な魔力クリスタルや金属類、モンスター素材などは資源ドロップと呼ばれて、ダンジョンから持ち帰られて人々の生活を豊かにしている。
以上これらのことからダンジョンには大変な需要があり、それにあやかって一攫千金を狙えるのが、ダンジョン攻略に夢と希望を抱く者があとを絶たない理由だ。
「なるほど。では、行ってみますか」
「そうですね」
俺と芽吹さんはスタスタ歩いて、ダンジョン入り口に設置された建物のなかへ。
ダンジョンの挑戦者──通称:攻略家たちの間をぬけて、さっさとダンジョンへ入場する。
「ちょ、ちょっと待ってくださいなのですっ!」
「はい?」
「カノウさんもメブキさんも、なんで手ぶらで入ろうとしてるのですかっ!?」
「ダメですか?」
「だめとかそういう話じゃないですよっ!」
リィに思いきり手を引っ張られて止められてしまった。
「ダンジョンは本当に危険な場所なんですよっ! お二人がお強いのはわかっていますけど、舐めてかかるのはよくないですっ!」
って言われても、ミスター・ゴッドのところじゃ『とりあえず、行ってみましょう』みたいなノリだったけど。
「まずは簡易な鎧くらいは借りた方がいいですねぇ」
「ダンジョンハウスで借りれますよ!」
サドゥとルーヴァにも言われては仕方ない。
俺たちは一旦引き返して、ダンジョンハウスとやらに立ち寄り、装備を借りることにした。
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