バトルロワイヤルだよ!


 白い光が晴れていく。

 恐る恐る目をあける。

 さっそく『チュートリアル会場』の看板が見えた。

 最初の場所に戻ってきたようだ。

 実家のような安心感がある。


『お疲れ様でした。それでは、これより最後の試練に挑んでいただきます』


 最後の試練だと?

 聞いてないな。


 突然の勧告にみんなざわめきたつ。


『チュートリアルダンジョンで各々方レベルをあげていただきましたね。レベルが十分ならば、試練をたやすくクリアし、異世界へ転移する事ができるでしょう』

「足りなければ?」


 誰かが聞いた。

 ミスター・ゴッドは答えない。

 沈黙を貫かんとする意思を感じる。


『転移できるのは5名のみです。最後まで諦めずに頑張ってください』

 

 不穏な気配が漂いはじめた。

 5人のみだと? ほかの95人はどうなる。

 白い空間に石門が現れていた。

 先に進めという事らしい。


「加納さん」

「芽吹さん、無事でしたか」

「それはこっちの台詞ですよ。まさか1週間潜りっぱなしなんて……ほかの皆さんは最長でも6時間連続の探索までしかしてないのに。体は大丈夫ですか? 病気にはなってませんか?」


 俺は疲労回復秘孔で芽吹さんを突く。


「ふにゃああああんっ! またこれぇえ?!」


 芽吹さんが甘い声をだして、子鹿のように内股でへにゃんと座り込んだ。

 頬が染まり、口からは熱い吐息が漏れている。

 しまった。流石にえっちな感じになってしまっている。


「にゃんですか、そ、それは……はっ、身体から活力がみなぎってくる気がします。これは気力回復よりも最も根本的な部分での回復……!」


 流石は腕利きの殺し屋。

 言うより行うほうが話が早い。


「まさか、この攻撃……じゃなくてマッサージで疲労を回復しながら、行けるところまで潜ったわけじゃありませんよね?」

「全部あってますよ。完全に理解できてます」

「なんて無茶な……事情はわかりました。でも、いきなり秘孔を突くのはやめてください!」

「すみません、調子に乗ってました」

「もう。まあ、今回は許してあげます」


 ぷいっとそっぽを向かれるが、お咎めなしで済んだ。


 と、その時、


「うがあああ! なな、何しやがるんだ、テメェ!」


 いきなりそんな怒声が聞こえてきた。

 見やれば極悪死刑囚がナイフで誰かに斬りかかったようだ。

 白い空間を真っ赤な血が染める。


「ケッケケ、わからねぇか、このゲームのクライマックスは、たった5人しか異世界にいけないんだぜ?」

「だったら、なんだってんだ! なんで俺を切りつける理由になる!」

「ケケケ、わからねぇようだな。つまりよぉ、ここから先は全員参加の殺し合いバトルロワイヤルってことだろーがよ!」

「くっ! ならば、貴様が死ねえ!」


 斬られた男は反社会的人間だったのか、拳銃を取り出して躊躇なく発砲した。

 1発、2発、3発、4発。

 極悪死刑囚はなす術なく撃ち殺される。


 そこからの秩序崩壊はあっという間だった。

 たった5名しか異世界に行けない。

 それはつまり、最後の試練を突破できても、席が限られているということ。

 ならば、最後の試練に母数を挑むまえに削ってしまえばいい。


 さあ、戦おう。

 たった5つの席を掛けて。

 そういう発想らしい。


 血の気の多い連中だ。


「そこのジャパニーズども」


 傍観者を決め込んでいた俺たちのもとへ、メキシコ人ボクサーが拳を固めて寄ってくる。

 主要4団体を統一しかけたとかいうスーパーチャンピオンだったか。デカくて分厚い。


「なんですか、チャンピオン」

「ほほう、俺を知ってるのか」

「それほどは知らないですよ。麻薬カルテルと繋がっていて界隈を干され、ドーピングがバレて無事ボクサー人生終わったところまでです」

「はは、面白いジャパニーズだ。まあ、それも過ぎた話だ」

「意外と寛容ですね」

「まあな。しかし、やることはやる。平和ボケした若者を痛めつけるのは心が痛むが、これは仕方ない事だ。あぁ、そっちの娘は安心していいぞ。お前みたいな大人しそうな女は好みなんだ。俺の愛人として向こうの世界に連れていってやる」


 チャンピオンはちょいちょいっと手招きする。


「気持ち悪いです、下がってください」


 芽吹さんは俺の背に隠れた。

 チャンピオン、振られましたよ。

 

「へ、生意気なジャパニーズナデシコを屈服させるのは楽しそうだ……へへ、すぐに大きなので気持ちよくして逆らえなくしてやるぜ!」


 左ジャブ、右フックのワンツー。

 素早い拳を受け止める。


「っ! て、てめえ、良い目してるな……! ボクサーになれるぜ!」

「チャンピオン」

「っ、な、なんてグリップパワーだ……っ、離せ、離しやがれ!」

「先に俺の太いので気持ち良くなってくれませんか?」

「ッ、て、てめえ、やたらマッチョだと思ったがソッチ系なのか?!」


 チャンピオンの額の秘孔を突く。

 確実に入った。


「へへ、なんのマネだい、ジャパニーズ」

「か、加納さん、それはまさか!」

「お前はもうっている」

「な、なぃい? ぅが、ぉご、ぎぎぁ、が、うぎゃああ、ぁ、ぁ、気持ちぃ、いいー!!!」


 チャンピオンは叫びながら昇天していった。

 光の粒子となって空へ還っていく。

 

「加納さんもその技使えたんですね」

「? なんの話ですか?」

「知らずにオマージュしたんですね……」


 ビコーン!


 レベルがあがった?

 どうやら人間を倒した場合、そいつのレベルに応じて、獲得経験値が決まるらしい。

 人間はモンスターたちから経験値を集めまくってる分、たくさん経験値がもらえるボーナスモンスターみたいな扱いなのか。

 

「しかし、これ以上、人間を気持ちよくさせちゃうのは本望じゃないです。ここは危険です、芽吹さん最後の試練にさっさと行くことにしませんか?」

「それがいいですね」


 俺は芽吹さんの手を引いて、石門のなかへと突入した。

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