マッサージで逝かせる


 深度1のモンスターを倒し続けてはや10分ほど。

 同じ階層をほかの転移候補者たちも駆けずり回っているらしく、みんなさっきからちょいちょいすれ違う。


「おーい! 見つけたぞー!!」


 遠くでそんな声が聞こえた。


『階段発見後は皆さんのマップに場所をマークします』


 ステータスと同じ要領で「マップ」と唱えて、自分だけに見える半透明の立体地図をだす。今更ながらすごい技術だ。これホログラムとか言うやつじゃないのかな。


 俺たちは下の階へつづく階段にたどりつく。

 みんなに続いて降りていく。


 ────────────

 加納豊

 レベル4

 HP 4015/4015

 MP 513/513


 補正値

 体力   15

 神秘力  13

 パワー  14

 スタミナ 10

 耐久力  10

 神秘理解 8

 神秘耐久 8


 ユニークスキル

 ≪肉体完全理解者≫


────────────


 まだレベル4か。

 それなりに倒したと思ったがな。


「ミスター・ゴッド」

『なんでしょうかー』

「異世界で地球人の俺たちが通用するようになるには、推定で何レベルの補正が必要なんだ」

『人によるのでなんとも言えません』

「俺の場合はどんくらいだと思う」

『明らかに神ポジションですが、あなたの本体ステータスは知らないんです』

「そうか」

『まあ、50レベルは最低でも欲しいですね。でないと、ちょっと危険なモンスターに体当たりされただけで肉料理一丁あがりですよ』


 いまいち規模感はがつかめないが、丹念にレベルあげしたほうがよさようだ。


 分厚い体の人類最高戦力たちがそろって階下へ降りていく。

 深度2に降りてくるとモンスターがすこし大きくなった。

 さっきは膝丈くらいの高さで、チワワみただったが、いまは柴犬くらいある。


「たああ!」


 少女──芽吹めぶきさんはマチェーテでモンスターをぶった斬る。

 俺は素手で殴り殺す。


「あ、あの……」

「ん? なんですか」

「さっきから思ってたんですけど、なんかおかしくないですか」

「なにがです」

「みなさん、銃や刃物や鈍器で戦ってますけど……」

「ああ、そういう。僕は鍛えてるので」

「そういう問題でしょうか」


 芽吹は困惑しているようだ。


 俺の身長は195cm

 体重は105kg

 

 世界的にみても、まあデカい。

 素質というよりかは、史上最高のマッサージ師として英才教育と英才トレーニングをさせられてきたから、こんな肉体になっているのだが。


 ピコーン!


 またレベルがあがったか。

 経験値2倍のおかげでそこそこあがるな。


「加納さんは今なんレベですか?」

「今ので7です」

「わたし3です……ちょっと早くないですか?」

「そういうユニークです」


 ≪肉体完全理解者≫を説明したら、彼女は驚いた表情をした。


「え、それ、強すぎません?」

「ゲームには疎いもので。強いんですか?」

「たぶん、ぶっ壊れとかそういう類いかと……」


 なるほど。

 となると、このアドバンテージをもっと活かしたいな。


『んー? 経験値をたくさん稼ぐ方法ですか? そもそも、経験値は倒されたモンスターの討伐者への報酬として、モンスター自身の意志で産出されるものですからね。モンスターに話しかけて交渉でもしたらどうですか?』


 ミスター・ゴッドは笑いながらそう言った。


「良い事を聞いた」

『え?』

「加納さん?」


 俺はモンスターに近づいて足を払って転ばせると指で突いた。

 モンスターは目を見開き、直後へにゃんとふぬけた表情になる。


「加納さん……? 一体何をなにして、え、モンスターが光の粒子になった? ど、どういう現象ですかこれ?」

『ミスター・加納、それは、いったい……』

「ただの指圧ですよ」


 俺は『完全マッサージ体質』をいう究極の才能を完成させている。

 半径1,500mに近づかれただけで勝手にそのものを癒して気持ちよくしてしまうし、目線だけで施術してガンを治療したこともある。

 普段は他人の迷惑にならないように制御しているが、そんな俺が直接マッサージを行えば、そのものはたちまち気持ちよくなりすぎて文字通り昇天してしまうのだ。

 実際このせいで何人かお客を殺しかけてしまったこともある。


 要点をかいつまんでミスター・ゴッドと芽吹さんに説明してあげた。

 

『そんな馬鹿なことが……』

「モンスターと交渉するってこういうことなのでは?」

『い、いや、だからって本当に実行できる人間なんていないですが……』

 

 神は俺のマッサージスキルに困惑しているようだった。

 声音からありありと狼狽した様子が伝わって来た。


 通路を歩いてモンスターを発見したら指で突く。


「あの、なんで突くんですか……マッサージでもっとこう、寝てもらって揉んだり叩いたり」

「波動秘孔を突いてるんです」

「え?」

『は?』


 人体には216の波動秘孔が存在しているのは有名な話だ。


「い、いや、はじめて聞きました……」

『私もです……』

「その波動秘孔は通常すべての生物に存在します。秘孔を突くことで体内をめぐる波動エネルギーを活性化させ傷や病を癒せるですよ」

「はあ」

「まあ、世の中には秘孔を悪用した暗殺拳も存在するという噂ですけどね」

「むしろそちらが有名では?」


 ピコーン!

 ピコーン!

 ピコーン!

 ピコーン!

 

 レベルアップの音と芽吹さんの困惑がやまないなか、俺たちは深度3への階段を見つけた。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る